『最近のわが国における寄生虫症の動向と寄生虫卵検出のポイント』 |
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開催日:平成14年12月7日(土) 会場:千葉大学医学部付属病院 |
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講師:小林正規先生 慶應義塾大学医学部熱帯医学 寄生虫学教室 |
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はじめに 現在わが国で流行が見られる寄生虫症としては (1)海外の寄生虫の流行地に旅行することで感染するマラリア、消化管及び組織寄生の原虫症、蠕虫症等の輸入感染症 (2)輸入或いは有機栽培野菜等に付着した虫卵等を介しての消化管寄生の回虫、鈎虫、鞭虫、そして希ではあるが有鈎嚢虫症など (3)北海道全域に流行が拡大しつつあるエキノコックス症 (4)淡水産魚類から感染する肝吸虫や異形吸虫そして湖沼に放流されたブラックバスなどの外来魚類の繁殖による生態系の変化に伴い流行が見られるようになった日本顎口虫症など (5)港湾地区のネズミに感染が拡大しつつある広東住血線虫症 (6)上水道への動物排泄物汚染によるクリプトスポリジウムの集団感染等 (7)性感染症としての腟トリコモナス症、赤痢アメーバ症 (8)施設内集団感染が深刻な問題となっている赤痢アメーバ症 (9)依然流行が終息しない蟯虫症 (10)日和見感染症としてのニューモシスティス症 (11)猫の便などから感染するトキソプラズマや猫回虫、幼虫の寄生したミジンコや鳥、蛇の生肉から感染するマンソン孤虫症 (12) 海産魚類から感染する裂頭条虫、大複殖門条虫、アニサキス (13)豚や牛そして猪の生肉から感染する有鈎、無鈎条虫や肺吸虫症 (14)サワガニやモクズガニから感染する肺吸虫 (15)コンタクトレンズ着用などにより感染するアカントアメーバ、水泳中に感染するネグレリアのような自由生活性のアメーバ (16) 蚊が媒介する犬フィラリアなどがあげられる。第二次大戦後衛生状態の改善や集団駆虫により寄生虫症の感染者数は激減したが、新興寄生虫症も見られるに至り流行の現状は感染者数は減少しているにもかかわらず検査対象となる寄生虫種はかえって多様化しており、これらの寄生虫種に対する広い知識も要求されるようになってきている。また医療が高度に分化したことにより検査室では検体だけを機械的に扱うことが多くなってきており、その結果検査方法も画一的なものとならざるを得ず、その検体の背景を知って検査するのとでは検査の方法論から異なることも希ではないため、検査結果に大きく影響を与えていることも見逃せない点のように思われる。日本国内外の寄生虫症の動向については寄生虫学会、国立感染症研究所、海外勤務健康管理センター、WHO, Global Health Networkなどのホームページで詳細を見ることができるので参考にして頂きたい。 糞便検査に対する心構えや日常検査のフローチャート等については既に平成12年度千葉臨床衛生検査技師会(平成12年10月28日(土))一般・微生物検査研修会、国際化に伴う輸入腸管寄生原虫症と蠕虫症(井関基弘先生)が開催された時の詳細な資料があるので、今回は実際に検査を行う時に参考となるような方法論についての資料を用意しました。寄生虫卵・原虫(嚢子、栄養型)検出のポイントとしては基本的には適切な検体の処理、虫卵にあった顕微鏡の倍率や明るさコントラストの調整、虫卵や原虫を正確に鑑別できる観察眼、寄生虫に関する知識などがあげられますが、実際には実物をどれだけ多く観察することができたかという経験に勝るものは無いようです。ただ現在はインターネットによっても簡単に虫卵や原虫の写真を見ることができるようになってきているので、虫卵の写真や記録を残しておけば自分が行った同定が正しいかどうかも比較的容易に判定することができるようになってきています。またメールでその虫卵の写真を寄生虫学会のホームページに送って鑑別を依頼することもできます。ですから現在では寄生虫卵の検出と鑑別の最大のポイントは材料が糞便であることもあって、寄生虫に対する興味がどれだけあるかどうか、そしてそれをどれだけ実行できるかにかかっているかもしれません。 【参考図書】 1.横川 定、森下薫、横川宗雄:人体寄生虫学提要〔第15版〕.杏林書院、522-532 頁、 1976. 2.Hunter, Swartzwelder, Clyde: Tropical Medicine [Fifth Ed.]. W.B. Saunders co., pp. 321, 1976. 3.井関基弘:新しい腸管寄生原虫の検査、検査と技術、医学書院、25(4), 335-341頁, 1997。 |
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会場の様子(講義の後、たくさんの標本を鏡見することができました。) | |||
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