千臨技会誌 2010 No.1 通巻108 |
みて見て診よう | 超音波検査で脂肪肝を,みて,見て,診よう(4) | 旭中央病院 中央検査科 関根 智紀 |
研 究 | 当センターにおける抗酸菌の分離状況と薬剤感受性試験について | 千葉県がんセンター 臨床検査部 尾 郁子 |
施設紹介 | 千葉市立海浜病院 | 中村 卓 |
研究班紹介 | 臨床化学検査研究班 | 末吉 茂雄 |
コーヒー ブレイク |
実際に経験した“受け入れ拒否” | 匿名会員 |
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みて見て診よう! |
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超音波検査で脂肪肝を,みて,見て,診よう(4) |
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旭中央病院 中央検査科 関 根 智 紀 |
【はじめに】 最近,肥満や糖尿病さらに高血圧そして脂質代謝異常などメタボリック項目が注目されている.身近なところでは,お腹に手を当ててみると少々気になるのが脂肪肝である.脂肪肝にはさまざまな原因があるが,一般的には飲酒によるアルコール性脂肪肝と単純性脂肪肝(非アルコール性)に大別される.アルコールに由来しない単純性脂肪肝はnon-alcoholic fatty liver disease(NAFLD)と総称されるが,このNAFLDの中に炎症と繊維化を伴い肝硬変そして肝がんにいたる進行性の病態であるnon-alcoholic steatohepatitis(NASH)もある. 今回は,超音波検査で非アルコール性の脂肪肝を取りあげ,超音波検査で脂肪肝の一体何がわかるのか?「みて,見て,診よう」について触れてみたい. 【脂肪肝を“みて”みると】 肝臓は茶褐色を呈し,正常でも重量比で約2〜3%の中性脂肪が含まれているが,HE染色標本において有意な脂肪化の変化は見られない(図1.2).この中性脂肪の含有量が一定以上に増加すると脂肪肝となり,肝臓は黄色調が強く,割面は膨張して小葉構造は不明瞭となる.HE染色標本では脂肪滴として観察されるようになる(図3.4).正確には,アルコールによる脱水処理の際に中性脂肪が溶出し,空胞となった部分を脂肪滴としてとらえている.病理組織学的には,このような空胞が肝小葉の1/3以上を占めるものを脂肪肝と診断している. 次に,血液生化学検査のデータをみてみると,脂肪肝では50〜90%に共通してASTとALTの上昇がみられる.肥満による脂肪肝では主として門脈域が障害されるのでAST<ALTとなる.逆に,アルコール性脂肪肝などでは肝小葉中心が障害されるのでAST>ALTとなるが特異的な検査値とは言い難い(図5). 超音波検査を進めるとき,どんなに前情報がなくても目の前には患者がいる.超音波の探触子を握って検査前に患者を“みて”みると外見は容易にわかるものである.体型的には,@痩せている,A普通,B太っている,に3分類されるが,これだけでも検査前の情報としては十分である.一般人の,太っている,の体型では脂肪肝の可能性が高いからである.超音波検査による脂肪肝の観察は,「患者をみる」この時点からスタートしている. ピットホールは,痩せている,の体型であり,この痩せているにも脂肪肝が存在することがある. 【超音波検査で脂肪肝を“見て”みると】 超音波検査による脂肪肝の特徴的な所見を“見て”みる(表1). 超音波検査では,@高輝度な肝実質,A肝腎コントラスト,B肝内脈管の不明瞭化,C肝深部のエコー減衰,の所見が判読の主体になる.超音波検査での観察は,肝腎コントラストのみ陽性の場合は脂肪化の可能性が示唆されるが,超音波検査で脂肪肝と判読そして診断するには他の所見もみられた場合となる. 1.高輝度な肝実質 肝細胞内への多数の脂肪滴が音響学的な反射体となる.このため,肝実質に微細な高エコースポットが増加して肝実質全体が高輝度となって観察される(図6.7). ピットホールは,腹壁の厚い症例においても高輝度になりやすいことがある. 2.肝腎コントラスト 肝臓と右腎を同一画面そして同一深さに表示してエコーレベルの相違を見る「肝腎コントラスト」という評価法である.肝臓への脂肪沈着があきらかにある場合は,そのエコーレベルの差が肝腎コントラスト陽性となり,脂肪肝をみていくうえで重要な所見である(図8.9). ピットホールは,胆汁うっ滞,うっ血肝,急性肝炎の回復期などで肝実質のエコー輝度が上昇している場合がある. 3.肝内脈管の不明瞭化 肝内には,肝静脈,門脈などが描出され,通常ではこれらの脈管は肝実質との境界が明瞭である.脂肪肝になると高エコースポットの散乱により,肝静脈,門脈の壁および内腔が不鮮明となりやすい(図10.11). ピットホールは,慢性肝障害で脈管の口径不同および狭小化が生じていると境界明瞭な描出が困難となりやすい. 4.肝深部のエコー減衰 肝臓に強い脂肪の沈着が生じると超音波の散乱が著しくなり,肝の浅い部分では実質が高エコーとなるが,深い部分ではエコーの減衰がみられるようになる.(図12.13). ピットホールは,減衰の程度は脂肪化の量とほぼ相関を示すが,最近の装置の進歩(multi-frequency probe)により肝深部の診断能が飛躍的に向上した代わりに,軽度の脂肪肝では深部のエコーの減衰が得られなくなってきていることに注意する.逆に,皮下脂肪が厚いときには肝臓の脂肪化がなくても深部にエコーの減衰が生じるので注意する. 【超音波検査で脂肪肝を“診て”みると】 肝臓の脂肪化は,一般的にはびまん性に生じるので超音波検査で判読そして診断することが容易である.しかし,脂肪の沈着も非びまん性として@区域性・不均一な脂肪化,A限局性低脂肪化域,B限局性脂肪化域,としてみられることがある.超音波検査で非びまん性脂肪肝をみると,ときに肝腫瘍と紛らわしいものがある.これらの症例においては,肝腫瘍との鑑別のためにも超音波検査で脂肪肝を“診て”みる判読力が求められる. 1.非びまん性脂肪肝 1) 区域性・不均一な脂肪化 肝静脈を境とした区域性(segmenta1)に広がるもの,あるいは肝全体に不均一な地図状(geographic)に分布するものなどがある.軽度から中等度の脂肪肝に認められることが多い(図14). 2) 限局性低脂肪化域 (focal spared area) 広範な脂肪化の中に低脂肪部が残存する.この部分の境界はやや不整の低エコー領域として観察される.軽度から中等度の脂肪肝にみられることが多い.好発部位は,胆嚢床近傍(胆嚢静脈流入部),門脈水平部腹側(右胃静脈流入部),肝静脈周囲などで門脈血流が欠如した部位にみられる(図15). 3) 限局性脂肪化域(focal fatty change) 肝実質内に限局性の脂肪沈着を示すもので高エコー領域として描出される.肝円索に隣接してみられることも多く,同時に右胃静脈の還流領域である内側区でもfocal fatty change をみることもある(図16). 2.肝腫瘍との鑑別 区域性の脂肪肝では脂肪の沈着が肝静脈を境に明確となり肝腫瘍との鑑別は可能である.しかし,不均一な脂肪肝では多発性の肝腫瘍などと区別が求められる. 限局性低脂肪化域は広範な脂肪化の中に低エコーとして描出されるので低エコーを呈する肝腫瘍性病変との鑑別が問題となる.病変部内に門脈枝を示唆する血管構造の確認,造影エコー,後血管相で肝実質と同等の染影所見などから鑑別する. 限局性脂肪化は高エコー腫瘍のように描出されるので,血管腫,肝細胞癌,転移性肝腫瘍との鑑別が問題になる.腺腫様過形成や肝細胞癌では脂肪沈着を伴うこともあり,特に肝硬変で限局的な脂肪化を伴う高エコー結節が観察されたら単なるfocal fatty changeと判読するより高分化型の肝細胞癌で脂肪沈着を生じている可能性があるので,他の画像検査で積極的に診断を進めることが求められる. 3.NASH(non-alcoholic steatohepatitis) 超音波検査で単純性脂肪肝の中で予後不良とされるNASHを鑑別することは現時点で無理かと思われる.同様に,血液生化学検査においてもASTとALTが高い,血清レプチンが高い,インスリン抵抗性が高いなどの検査上の特徴は報告されているが,確診には肝生検による組織学的診断に頼らざるを得ない.しかし,超音波検査は最初の検査として単純性脂肪肝の拾い上げの役割が大きく,最近では肝機能が正常のNASHが問題となってきていることも考慮すると超音波検査はNASH診断の糸口になるかも知れない. 【まとめ】 生活習慣病が深刻化しているなか,脂肪肝に目を向けて「みて,見て,診よう」を考えてみた.脂肪肝はあまりに身近な良性疾患であり,超音波検査でも診断が容易であるが,NASHまで考えると奥深い疾患で注意が必要である. (ご協力を頂きました当院病理部に深謝致します)
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研 究 |
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当センターにおける抗酸菌の分離状況と 薬剤感受性試験について |
千葉県がんセンター 臨床検査部 尾 郁 子 里 村 秀 行 |
Key words:非結核性抗酸菌,薬剤感受性試験 序文 1970年代まで順調に減少してきた我が国の結核罹患率は,1980年頃よりその減少速度が鈍化を示し,1999年に「結核緊急事態宣言」が発表された.その後は再び減少している.それに対して,非結核性抗酸菌nontuberculous mycobacteria(NTM)症は増加傾向にあり,1997年国立療養所共同研究班の調査では新患の2割がNTM症であったと報告された1).近年の報告では結核の減少とあわせて抗酸菌症の30〜40%を占めるほどになった2)といわれる.また,基礎疾患のない中高年の女性に肺Mycobacterium avium complex(MAC)症が急増している. 当センターでは,感染症の検査及び腫瘍との鑑別目的で抗酸菌検査が依頼される.今回,その分離検出状況について検討したので報告する.また合わせて感受性試験結果についても報告する. 方法 検出状況は2000年〜2005年の依頼検体について,感受性試験は1999年6月〜2006年8月までの検出菌(128株)についてまとめた.培地は工藤PD培地(日本BCG),MGIT(BD),同定はコバスアンプリコア(ロシュ),DDHマイコバクテリア(極東),感受性はウエルパック培地A,B,P,S(日本BCG)を使用した. 結果 1.検体数・陽性率 検体数は6年間で4043検体,そのうち抗酸菌陽性は184検体で,陽性率は4.6%であった.年別の陽性率は3.1〜6.1%,増減の傾向は認められなかった. 2.菌種別症例数 年別の症例数は,2000年〜2005年でそれぞれ26,26,29,13,18,29例で,図1に菌種別割合を示す.特定菌種の増減の傾向は認められなかった.
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研究班紹介 |
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臨床化学検査研究班の紹介 | ||
千葉県循環器病センター 末 吉 茂 雄 |
研究班紹介も連載が始まり,既に多くの研究班紹介が紹介されてまいりました.臨床化学検査研究班も,他の研究班の活動とあまり違ったことはなく,極々普通に精度管理調査や研修会を企画し活動しています.・・・・・と,書いてしまうと,この先,話が続かなくなってしまいますので,少し我々が研究班活動を通じて考えていることを触れさせていただきたいと思いますので,お付き合いください. 「臨床化学」というと,ただ検体を分析装置にのせて,たくさんの数字が勝手に出てきて,その数字を医師に報告する,とても容易な検査と思われがちです.確かに,分析装置,測定試薬,その他にもたくさんの周辺環境が整ってきています.現在では多くが容易に検査できるようになってきたと思いますし,これから先,きっともっと容易に検査ができるようになり,ゆくゆくは検査技師なんて要らないなんて言われるようになってしまうのではないかと危惧される方もいらっしゃるかもしれません.でも,果たしてそんなことになるでしょうか?どんなに分析装置などが発展しても,あくまでも機械は機械であって,考えて動くことはできません.しっかりと考えて行動することは,これから先も必ず我々がやっていかなければならないことと思っています.そこで臨床化学検査研究班では,日々の検査業務において考えて行動するためにどうしたらよいかと,日々悩み苦しめられています.そのための答えは見つかっておりませんが,一つの突破口として解らないことがあったら相談できる仲間,みんなで一緒に考えることができるようにがんばっています.そのかいあってか,私を始めとして,日常業務は「化学」でなくなっても研究班員を継続する仲間たちが大勢います.そのため研究班員は12名と大所帯の研究班ですが,これでもわからないことだらけで,日々毎日が勉強と感じております.ご興味のある方,お悩みのある方,一緒に考える一因として大歓迎です.どうぞ一度研修会にでも参加してみてください.(勉強やボランティア活動ばかりやっているわけではありませんよ,飲ミニケーションも適度にやっています) |
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コーヒーブレイク |
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実際に経験した“受け入れ拒否” |
病院勤務 匿 名 会 員 |
救急医療をテーマにしたTVドラマは多い.我が家では欠かさず見ている.特にお気に入りだったのが“救命病棟”江口洋介演じる,外国帰りの進藤先生,従事する松嶋奈々子演じる小嶋先生,「あんな先生はいないよぉ.」なんて言いながら見ていた.このドラマの良い所は,絶対に受け入れ拒否をしない点である.どんなに忙しくても,患者で込み合っていても,ホットラインが鳴ると『すべて受け入れます!』と答えていた. 最近は目にしなくなったが,少し前は毎日の様に「たらい回しの末,死亡」「何箇所も受け入れ拒否」「救命医不足」など等,新聞やTVで取り上げられていた.関心はあったが,自分とは関係無いとも思っていた.ところが,まさか自分が,受け入れ拒否に会うとは・・・. ある日曜日,硬式野球をやっている息子が練習試合中に,打球を目の上に受けた.鈍い音がして,その場に蹲った息子の目の上,眉毛のあたりが見る見る腫れて,拳くらいに腫れあがった.すぐに氷で冷やし,安静にしていた.元気だったので,病院には行かず,様子を見ていた.しかし,当たった所が頭なのでと心配してくれる声が多く,念のため外科の当番病院へと連れて行った.初診だったので,申込用紙に記入し,順番を待っていた.しばらくすると『申し訳ありませんが,今日は整形の先生しかいないので診れません』との事.(当番病院なのに? 整形の先生は何だったら診てくれるの?)と言いたかったが,診れないと言う以上,ここにいても仕方ないので,グランドへ戻った.事情を説明していると,保護者の中に,救急隊の方がいて,『やはり病院で診て貰った方が良いですよ』と救急車の手配をしてくれた.息子は迎えに来た救急車の中へ入り,私は外で事の成り行きを見ていた. 『三次救急のK病院に聞いてみます』『K病院も医師がいないので診られないとの返事です』『今,他の病院に聞いています』『K病院が何処も受け入れない場合,もう一度電話してくださいと言っています』 かれこれ30分,救急隊の方が,あちこちの病院へ電話交渉をしてくださった.しかし,受け入れOKの病院は見つからず,最悪,私の勤務している病院へ連れて行こうかと思っていた矢先,救急隊の方が,『これからK病院へ向かいます.とりあえず連れて行っちゃいます』とサイレンを鳴らしてK病院へと向かった.帰りを考えて,私は車で後を追った. 遅れて救急外来へ到着した私を救急隊の方が迎えてくれた. 『CTとレントゲンを撮っています』『受け入れて貰えたんですか?』『最近,この病院は受け入れを拒否するんですよ.我々は困ってしまいます.今も無理やり連れて来ました』との事,救急隊も不満を口にする様では,三次救急病院の役割は果たされているのか心配である.病院側にも医師不足,過酷な労働,言い分はあると思うが,ここは病める市民の最後の砦ではないのか? 我が身にふりかかって初めて,怒り,憤り,不満を覚えた.しばらくして,結果説明のため,診察室へと呼ばれた.すると,医師が3人もいるではないか! 診る先生がいないと言った受付の女性は,どういう理由でそう言ったのか? 帰りに『先生いるじゃないですか』と言いたい気持ちを我慢して『ありがとうございました』とお礼を言った. 精算をする際も,『今日は日曜日なので預かり金10000円を頂きます.1週間以内に会計へ精算に来てください』『1週間以内ですか? 来れない場合はどうなりますか?』『代理の方に来て貰ってください.来れない場合は返金出来ません.追加徴収の場合は連絡致します』???会計まで患者の立場を考えていない体制になっていた. 我が息子に降りかかった出来事が故に,この様な愚痴を並べた文章になってしまったが,これを契機に,自分に置き換えてみたい.当直帯(夜間・深夜)に検体が提出されても,自分の家族の検体だと思って,忙しくても,眠くても,心を込めて検査をしようと改めて思った.病める人にとって,病院は最後の駆け込み寺なのだから・・・. |