総説 臨床化学検査シリーズ“よろず寄稿”(1) 千臨技 臨床化学検査研究班
研究 第32回千葉県臨床検査学会学術奨励賞受賞
C.DIFF QUIK CHEK コンプリートと培養検査との比較
瀬川俊介1)2) 渡邊正治1) 斉藤知子1)
村田正太1) 宮部安規子1) 佐海知子1)
野村文夫1)2)
1)千葉大学医学部附属病院検査部
2)千葉大学大学院医学研究院分子病態解析学
資料 病院での聴覚障害者への対応 東京歯科大学千葉病院
臨床検査部 田村美智
施設紹介 千葉県こども病院  
研究班紹介 血液研究班の紹介 順天堂大学医学部附属浦安病院
澤田朝寛
総説

臨床化学検査シリーズ“よろず寄稿”(1)

千臨技 臨床化学検査研究班

(はじめに)
 臨床化学検査研究班は,各研究班員が日頃ルーチンで遭遇したことや疑問に思ったことをモチーフに,検討および解析した結果を掲載させていただきます.
 過去に千葉県臨床検査学会で研究班企画演題として発表した内容ですが,ご了承ください.
 第1弾は3タイトルです.“遠心分離時間によるLDHへの影響とその回避(血漿ヘパリンLi採血管において)”,“検体中のフィブリンが測定値へ影響を及ぼした事例”,“検体処理時に起こる事例と測定値への影響について”です.

1.遠心分離時間によるLDHへの影響とその回避(血漿ヘパリンLi採血管において)

成田赤十字病院検査部
高橋直樹

【検討の経緯】
 採血管メーカー変更(テルモ株式会社製/ベクトンディッキンソン株式会社製)に伴い,生化学項目の測定値にメーカー間差がないことを目的として検討を行いました.問題となるメーカー間差は確認されませんでしたが,プレーン採血管とヘパリンLi採血管の間でLDHの大きな乖離が確認されました.

【LDHの乖離と原因】
 プレーン採血管に比べヘパリンLi採血管の方が,変動幅で5.0~57.4%増加しました.様々な文献等で調べた結果,血漿中の残存血小板の影響が示唆されました.

【残存血小板による影響の確認】
 テルモ・ベクトン2社のヘパリンLi採血管を使用し,ボランティア8名より採血を行いました.2通りの遠心条件(3000rpm・7分と3000rpm・7分2回遠心)で血漿中のLDHと残存血小板数を比較検討しました.LDHは日本電子BM2250自動分析装置で,残存血小板数はシスメックスXE-2100自動血球分析装置で測定しました. ※3,000rpm=1580G

テルモ社製ヘパリンLi採血管
テルモ社製ヘパリンLi採血管
ベクトン社製ヘパリンLi採血管
ベクトン社製ヘパリンLi採血管

 2社の採血管ともに同様な傾向がみられました.7分1回遠心に比べ2回遠心の方が,LDH・血小板数ともに減少傾向となりました.特にNo.4の検体は,テルモ社製で236U/L,ベクトン社製で449U/Lと大きな乖離がみられ,血小板も多く残存していました.  また,遠心2条件でのLDHと血小板の測定値差をグラフ化してみると,残存血小板とLDHには相関関係がみられました.

<ベクトン社製ヘパリンLi採血管おけるLDHと血小板の測定値差>
ベクトン社製ヘパリンLi採血管おけるLDHと血小板の測定値差

 回帰直線はY=30.73X-0.3835で,残存血小板1万/lあたり,LDHが約30U/Lの増加すると予測できます.また,テルモ社製ヘパリンLi採血管における回帰直線は,Y=31.594X-3.9827で,2社ともにLDHの測定値差は残存血小板によるものだと確認できました.
 カラー図1は3000rpm・7分遠心の残存血小板をメイ・ギムザで染色した像です.油侵レンズにて1000倍で確認しました.この視野には,4つの血小板がみられ,一番大きな血小板で約3~4 mの大きさだと思われます.この血漿の残存血小板数は5.3万/ l,LDHは247U/Lでした.また,3000rpm・7分2回遠心の測定値は,残存血小板数は0.6万/ l,LDHは138U/Lでした.

【対処法の検討】
 残存血小板を回避できる,最適な遠心時間の検討を行いました.ベクトン社製ヘパリンLi採血管を使用し,遠心条件を3000rpm・7分,10分,15分の3条件で残存血小板とLDHを測定し,最適な遠心時間の検討を行いました.(対照は,ベクトン社製プレーン採血管で遠心条件を3000rpm・7分)

【検討結果】

*遠心時間の検討(LDH U/L)*
遠心時間の検討(LDH U/L)
*遠心時間の検討(血小板数万/ l)*
遠心時間の検討(血小板数万/ l)

 対照であるプレーン採血管の残存血小板は0万/lで,LDHの測定値に影響はないと考えられます.7分遠心したヘパリンLi採血管の残存血小板数は0.4~1.8万/lで,LDHの高値が確認できます.しかし,10分,15分遠心では,残存血小板数はプレーン管の数値とほぼ同等であり,LDHの結果もプレーン採血管と同等の結果が得られました.

【まとめ】
 プレーン採血管の場合,血小板は粘着・凝集がおこりすみやかに遠心分離されます.しかし,ヘパリンLi採血管は,遠心分離を適切に行わないと血漿中に血小板が残存し,LDHの測定値に影響を及ぼすことを確認しました.
 対処法として,遠心時間を10分間にすることで,効率的かつ残存血小板の影響を回避することができました.
 当院では,ヘパリンLi採血管を透析患者やヘパリン投与中の患者など限定的に使用していますが,検査時間短縮等の理由で緊急検査に使用されている施設もあるかと思います.このような場合は,遠心時間に注意が必要だと感じます.

2.検体中のフィブリンが測定値へ影響を及ぼした事例

安房地域医療センター臨床検査室
岩田幸広

【はじめに】
 近年の汎用自動分析装置には,検体中のフィブリンを回避するための検知機能が搭載されており,その多くを回避することが可能となっています.しかし,その機能に頼りすぎるあまり,中にはフィブリンの確認を怠ることをしばしば経験している方がいるのではないでしょうか.ちょうど,そんな方にお薦めしたい事例があります.以前,フィブリンの電解質希釈槽内への混入が原因と考えられた電解質測定値の低値化現象を経験したので紹介します.

【事例】
 当院で使用している自動分析装置は日立7180形カラー図2(以下,7180)と日立LABOSPECT008(以下,008)です.両機種ともにピペッティング方式で,フィブリンを検知する機能も搭載しています.この機能は,吸引時にサンプルプローブ内の圧力変化を測定し,フィブリンや異物による詰まりを自動検知し,アラーム等で知らせてくれます.ある日の朝,当院検査室において早朝の病棟採血20検体を当直者が7180で連続測定しました.3番目の検体をサンプリングした際にフィブリン検知アラームが鳴りました.アラーム解除後そのまま測定は継続し,設定範囲を外れた測定値に関しては自動再検が行われました.すべての分析が終わり測定結果を確認した際,電解質測定値に再検値との乖離がみられました.(カラー図3)
 直ちに008で全ての検体を再測定し比較したところ,7180の電解質測定値のみに低値化が認められました.(カラー図4)

【事例検証】
 7180の初回測定値と008での再検値とで電解質測定値を比較すると,明らかに測定値差を認めたものは16件中7件でした.測定値差を認めた7件の幅はNaで最大16.5%最小6.3%,Kで最大14.0%最小4.2%,Clで最大14.9%最小5.2%という一定ではないバラツキを認めました.(カラー図5)

【事例考察と対応】
現象を整理してみると,

  1. 電解質測定値のみに測定値差が見られる.
  2. 他の検査項目には影響がない.
  3. 連続して測定値差が発生していない.
  4. 測定値差にバラツキが見られる.
  5. 試薬は十分量ある.
  6. フィブリン検知アラーム発生後から測定値差

が見られる.

 これらのことから,フィブリンが電解質希釈槽内へ混入し流路系で詰まりが起きている可能性が示唆されました.希釈槽から排液されるまでの流路はふた通りあります.一つはシッパシリンジで吸引され,電極を経由し起電力測定後に排液される流路と,もう一つは測定の過程で希釈槽内に残る液を真空ノズルで吸引し排液する流路です.状況を改善するにはこのふたつの流路の洗浄が必要となります.今回の事例では,シッパシリンジ内に気泡が出現していたことから,電極経由側排液流路の詰まりの可能性が高いことが推測されました.サンプルノズルを清掃,そして希釈槽内と排液流路の洗浄を実施しました.結果,異常値発生前の正常な状態に復帰しました.

【対策】
 フィブリンの影響を回避する対策として次のようなものが考えられます.

  1. 十分な血液凝固を確認したのちに遠心操作を実施する.
  2. 遠心分離後の検体の性状を目視にて確認する.
  3. フィブリンが析出してしまった場合,他容器に血清を分注するなど適切な処理をした後に測定する.
  4. 測定値に影響のない道具を用いて物理的にフィブリンを取り除く.
  5. ヘパリン採血管などに血液を採取する.

【まとめ】
 今回紹介した事例から,フィブリン検知機能を有していてもトラブルを起こす可能性があることを認識していただきたいと思います.そして,トラブルを未然に防ぐための努力は決して惜しまないことが大切であると思います.

3.検体処理時に起こる事例と測定値への影響について

千葉県こども病院検査部検査科
雨宮将史

 臨床化学検査において,溶血など検体の性状が検査結果に影響を与えることがよく知られています.今回,小児専門の病院で遭遇した事例とそのデータに与える影響について報告します.

【当院の現状と検討目的】
 小児病院では患児の循環血液量が少なく,採血量を確保することが困難です.さらに患児が採血を嫌がるため,採血時に起こる溶血を完全に防ぐことは不可能です.また,採血量が十分確保できていない検体は,自動分析装置で採血管のまま測定を行うことができないため,検体遠心後に血清を分離し測定を行います.その際,採血管の分離剤の際まで血清を採取するため,血球が混入してしまいます.このような事例は稀なことではなく日常的に起こるため,このような場合,測定データにどのような影響を与えるのか検討を行いました.

【検討方法】
 検討方法は,溶血が及ぼす影響についてはヘモグロビン25.6g/dlの血球を溶血させ,血清に対し最終濃度が1%になるように希釈系列を作成し測定しました.(カラー図6)血球混入が及ぼす影響についてはヘモグロビン25.6g/dlの血球を,血清に対し最終濃度が1%になるように希釈系列を作成しました.(カラー図7)分析装置はH7170S型自動分析装置を使用し,項目はTP,ALB,BUN,CRE,UA,Na,K,Cl,TB,DB,Ca,IP,Mg,Fe,TC,TG,HDL-C,AST,ALT,LDH,ALP,GGT,CHE,AMY,CK,CRPの26項目について行いました.

【結果】
 溶血の影響を受けたK,AST,LDH,TB,DBの相対値を表すグラフを以下に示します.

溶血の影響を受けたK,AST,LDH,TB,DBの相対値を表すグラフを以下に示します.
K,AST,LDH,TB,DBの相対値を表すグラフ

 溶血液を添加していない血清の測定値を100%としたとき,Kでは溶血液1%添加で112%,ASTでは溶血液1%添加で138%,LDHでは溶血液1%添加で224%,TBでは溶血液1%添加で82%,DBでは溶血液1%添加で68%でした.
 また,血球混入の影響を受けたLD,CRPの相対値を表すグラフを以下に示します.

LD,CRPの相対値を表すグラフ

 血球を添加していない血清の測定値を100%としたとき,LDHでは血球1%添加で115%,CRPでは血球1%添加で41%でした.
 溶血の影響は,赤血球内外の成分の濃度差およびヘモグロビンの性質に依存し,測定結果に大きく影響しています.再び検体の採取が可能であるなら,再採取が望ましいと考えます.無理な場合には,影響を受ける項目に何かしらのコメントを付加する必要性が再確認できました.

 血球の混入は,1%程度の混入であれば数項目において若干の影響を認めましたが,CRP以外では溶血ほど強い影響を検査結果に与えていないことを確認しました.血球混入による検査結果への影響は,再遠心により回避できると思われます.各施設によって検体の性状には特徴があるため,自施設の特徴を理解し,それにより検査結果に影響があるのかを再確認することが必要と考えます.

(おわりに)
 本3タイトルが,皆さんの日常の検査において参考になりましたら幸いです.今後,臨床化学検査研究班では“ちょっとしたこと”を,研修会場や千臨技ホームページ上などで皆さんと情報のやり取りを実施していこうと考えています.
 次回は第2弾として“採血”と“溶血”について掲載させていただきます.

血漿中の残存血小板
図1 血漿中の残存血小板
日立7180サンプリング機
図2 日立7180サンプリング機
電解質初測値と自動再検値
図3 電解質初測値と自動再検値
7180と008の電解質測定値比較
図4 7180と008の電解質測定値比較
7180と008の電解質測定値乖離幅
図5 7180と008の電解質測定値乖離幅
溶血希釈系列
図6 溶血希釈系列
血球混入希釈系列
図7 血球混入希釈系列
研究

第32回千葉県臨床検査学会学術奨励賞受賞
C.DIFF QUIK CHEK コンプリートと培養検査との比較

瀬川俊介1)2) 渡邊正治1) 斉藤知子1) 村田正太1)
宮部安規子1) 佐海知子1) 野村文夫1)2)
1)千葉大学医学部附属病院検査部
2)千葉大学大学院医学研究院分子病態解析学

キーワードClostridium difficile, C.difficile菌体抗原(GDH),toxinA/B,院内感染

1.はじめに
 抗菌薬関連下痢症の起炎菌として,最も頻度が高いのがClostridium difficileである1)C.difficileは芽胞を形成する偏性嫌気性グラム陽性桿菌であり,本菌の産生する毒素であるtoxinAとtoxinBが病原性を有している.また,芽胞により環境中に長期間生存出来るため,院内感染対策で重要な菌とされている2)
 C.difficile感染症(CDI)の迅速検査に糞便中の毒素検出検査が行われている.しかし,検査試薬の感度が低く,糞便中の毒素検出検査だけではCDIを見落とす可能性があるため,問題視されていた3)
 今回,toxinA・toxinBと同時にC.difficile菌体抗原であるグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)を検出できる迅速診断キットC.DIFF QUIK CHEK コンプリートについて,培養法と比較検討したので報告する.

2.対象と方法
1) 対象検体
 2011年7月から2012年3月の期間に,当院検査部に提出された糞便検体のうち,糞便中GDH・毒素の迅速検査とC.difficile培養検査を同時に実施した糞便検体388件を対象とした.
2) 糞便中GDH・毒素の迅速検査
 C.DIFF QUIK CHEK コンプリート(アリーアメディカル.以下コンプリート)を用い,取扱説明書に1 : 千葉大学医学部附属病院検査部2 : 千葉大学大学院医学研究院分子病態解析学キーワード… , 菌体抗原(GDH),toxinA/B,院内感染従って実施した.
3) C.difficileの培養法と毒素産生能の検査
 CCMA培地EX(日水製薬)を用い,嫌気条件下で48時間培養した.毒素産生能は発育したC.difficile集落より,コンプリートを用いて調べた.
4) 検討方法
 糞便中GDH検出とC.difficile培養結果の比較,C.difficile培養陽性症例を対象に糞便中毒素検出と発育したC.difficileの毒素産生能の結果を比較した.また,糞便中GDH・毒素検出結果と培養法との結果一致率を求めた.

3.結果
1) 糞便中GDH検出と培養の結果(Table 1)
 糞便中GDH陽性の67件中,C.difficile培養陽性は63件,培養陰性は4件であった.糞便中GDH陰性の321件中,C.difficile培養陽性は9件,培養陰性は312件であった.GDH偽陰性の9件はいずれも培養法でC.difficileの発育菌量が少ない検体であった.培養法を対照とした場合の糞便中GDH検出の感度と特異度はそれぞれ87.5%,98.7%だった.

Table 1 糞便中GDH検出と培養の結果
糞便中GDH検出と培養の結果

2) 糞便中毒素検出と発育したC.difficileの毒素産生能の結果(Table 2)
 培養でC.difficileが発育した72件を対象とした.糞便中毒素陽性の20件中,毒素産生株は19件,毒素非産生株は1件であった.糞便中毒素陰性の52件中,毒素産生株は31件,毒素非産生株は21件であった.毒素偽陰性の31件はいずれも培養法でC.difficileの発育菌量が少ない検体であった.培養法を対照とした場合の糞便中毒素検出の感度と特異度はそれぞれ38.0%,95.5%だった.

Table 2 糞便中毒素検出との毒素産C.difficile生能の結果
糞便中毒素検出との毒素産C.difficile生能の結果

3) 糞便中GDH・毒素検出とC.difficile培養の結果(Table 3)
 糞便中GDH・毒素共に陽性の21件中,培養法で毒素産生株の発育が19件,毒素非産生株の発育が1件,発育陰性が1件だった.培養との結果一致率は90.5%であった.糞便中GDH陽性・毒素陰性の46件中,培養法で毒素産生株の発育が27件,毒素非産生株の発育が16件,発育陰性が3件だった.培養との結果一致率は34.8%であった.糞便中GDH・toxin共に陰性の321件中,培養法で毒素産生株の発育が4件,毒素非産生株の発育が5件,発育陰性が312件だった.培養との結果一致率は97.2%であった.

Table 3 糞便中GDH・毒素検出と培養の結果
糞便中GDH・毒素検出と培養の結果

4.考察
 取扱説明書によると,コンプリートの毒素検出感度は,toxinAは0.63ng/ml,toxinBは0.16ng/mlであり,今までの検出キットと比べるとtoxinBの感度が向上している.今回検討した結果,毒素の感度は38.0%であり,他施設の毒素感度の検討結果と比べるとやや低かった4)5)6)7).一方,コンプリートのGDH検出感度が0.8ng/mlと,今までの検出キットと比べると数百倍以上の感度を有している.今回の検討の結果,GDHの感度は87.5%であり,他施設のGDH感度の検討結果と比べてもほぼ同等であった4)5)6)7)
 今回の検討で認められたGDH偽陽性の4件中,2件はメトロニダゾールまたはバンコマイシンによる抗菌薬治療が行われていたためにC.difficileが発育しなかったと考えられた.残りの2件は,過去の検査履歴がないため原因不明であった.毒素偽陽性の1件は,過去の検査履歴を確認したが原因不明だった.今後,GDH・毒素の偽陽性が確認された場合,原因を精査する必要があると思われた.
 糞便中のGDH・毒素が共に陽性の場合,C.difficile毒素産生株が発育する確率が高く,CDIの迅速診断の手助けとなる.また,院内感染対策の必要性を臨床側に報告することも可能である.しかし,抗菌薬治療中のために培養法でC.difficileの発育が認められない場合もみられた.
 糞便中のGDH陽性・毒素陰性の場合,C.difficile毒素産生株が約60%の確率で発育するため,結果の確定には培養検査をする必要がある.もし,培養検査の依頼がない場合,臨床側に連絡をして検査の依頼をするなど,培養法との併用が強く勧められる.
 糞便中のGDH・毒素共に陰性の場合,C.difficileが発育する可能性は低いが, C.difficile毒素産生株が約2%の確率で発育するため,必要に応じて培養検査を併用する必要がある.
 米国医療疫学学会(SHEA)と米国感染症学会(IDSA)によるC.difficile感染症に関するガイドライン8)によると,最初に糞便中GDH検査でスクリーニングを実施し,陽性の場合に毒素検出のための,細胞培養検査,PCR検査,分離株の検索などの検査を実施する方法が推奨されている.当院では,迅速検査で糞便中毒素の結果にかかわらず糞便中GDHが陽性を示した場合,病棟に連絡をして院内感染対策を取るよう依頼をしている.また,糞便中GDHが陽性を示したが培養検査の依頼がなかった場合,担当医に培養検査を依頼し,培養されたC.difficileの毒素産生能をコンプリートで調べて結果を報告している.今回検討したコンプリートを使用することで,糞便中GDH・毒素の検出を簡便かつ迅速に検査することが可能であり,より早い院内感染対策の実施が出来るようになった.また,培養分離株の毒素検出検査を実施することで糞便中の毒量の少ない検体を補うことができた.
 以上より,GDHとtoxinAとtoxinBを同時に検出可能な迅速キットC.DIFF QUIK CHEK コンプリートは,CDIのスクリーニング検査として有用性が高いことが確認された.

参考文献

  1. アリーアメディカル株式会社:C.difficile 感染症の臨床と新しい検査の考え方InfectionNOW No.6 ,2011
  2. 神谷茂:ディフィシル菌感染症の基礎と臨床モダンメディア56(10):233~241,2010
  3. 加藤はる: Clostridium difficile関連疾患について感染対策ICTジャーナル3:169~174,2008
  4. 澤辺悦子,他:Clostridium difficile感染症の迅速診断における糞便中C.difficile抗原およびトキシンA/B同時検出キット:C.DIFF QUICK CHEK COMPLETEの有用性に関する検討日本臨床微生物学雑誌21(4):253~259,2011
  5. 山影望,他:Clostridium difficile ToxinA/B迅速検査キットについての検討日本臨床微生物学雑誌21(4):223,2011
  6. 山本由香梨,他:C.DIFF QUIK CHEKコンプリートによるトキシンA・Bおよび抗原検出性能の評価日本臨床微生物学雑誌21(4):224,2011
  7. 黒瀬多規子,他:Clostridium difficile関連下痢症疑い患者についての迅速診断検査キットの評価と当院における分離状況日本臨床微生物学雑誌21(4):224,2011
  8. Stuart H. Cohen, :Clinical Practice Guidelines for Clostridium difficile infection in Adults.Update by the Society for Healthcare Epidemiology of America(SHEA) and the Infectious Diseases Society of America(IDSA).Infection Control and Hospital Epidemiology 31(5),2010
資料

病院での聴覚障害者への対応

東京歯科大学千葉病院
臨床検査部 田村美智

聴覚障害とは…
 他の障害とは異なり,目に見えない障害と言えます.他人の目から判別が出来ないことから,クラクションなどの音の警告に気付けず危険を察知することが出来ない等,コミュニケーションの問題があります.声で気づかせることが難しいので,肩をたたくなど体に触れて気づいてもらうことが必要です.
 また,耳が聞こえないということは情報が限られるということです.コミュニケーションの障害であることから,地域との交流がないことや防災無線放送が伝わらないなども問題となります.そのほか駅のアナウンスやエレベーターの重量オーバーのブザーなど,聞こえないことで不便となることはたくさんあります.
 また,音として認識していないことで勘違いをしてしまうこともあります.たとえば『悪寒』を健聴者は『おかん』と読みますが,『わるかん』と覚えている聴覚障害者も居ます.また,『座薬』を座って飲む薬と理解している聴覚障害者も居ます.こういった事柄が筆談の時に意思の疎通を図ることが難しい一つの理由だと言えます.

 では,聴覚障害者はどういった方法でコミュニケーションをとっているのでしょうか.
 聴覚障害者には,障害が起きた時期,聴覚のレベルや世代によってコミュニケーションの手段が異なってきます.

①聾者:先天的あるいは乳幼児期に失聴し,音の認識がほとんど不可能な人です.
音声言語を取得する以前に失聴しているため,しゃべることが出来ない人が多かった背景から聾唖者とも言われていました.今は,早期訓練や口話法,高性能の補聴器などにより,聾者でもしゃべることが出来るようにもなってきていますが,音声言語を取得しているわけではないため,主なコミュニケーションの手段は手話となります.

②難聴者:聞こえにくいが,まだ聴力が残っている人です.
補聴器を使って会話が出来る人から,ほとんど聞こえない人までさまざまです.

③中途失聴者:音声言語を取得した後,聞こえなくなった人です.聴力が低下した人から全く聞こえない人までいます.
まったく聞こえない人でも音声言語を取得しているため話すことは出来ますが,聞くことが不自由なため音声でのコミュニケーションは難しくなります.よって主なコミュニケーションの手段は筆談です.

 このように,聴覚障害者の中でもコミュニケーションの手段が異なってきます.また,年代によってもコミュニケーションの方法が変わることがあります.たとえば,聾者の中でも高齢の方だと手話よりも唇の形を読み取る口話が主なコミュニケーションの手段の場合もあります.

 では,私たち医療従事者はどのように対応したら良いのでしょうか.まず,聴覚障害者が病院で困ることは受付や検査の呼び出しです.聴覚障害者にとってマイクや音声での呼び出しは聞き取ることが出来ません.よって,いつ呼ばれるかといつも緊張して待っていることになります.その手助けとなるのが振動呼び出し機です.合図くん(ダブル・ピー株式会社販売)などの振動や光で呼び出しを伝えることが出来る装置があることで,呼び出しに緊張を強いられるようなことも少なくなるでしょう.(参照図1)

【図1】ダブル・ピー株式会社パンフレットより抜粋
ダブル・ピー株式会社パンフレットより抜粋

 また,検査や診療について,医師や技師の話を理解することも大変です.まず,私たちは手話通訳者に対する理解が必要です.手話通訳者が居ない場合は視覚でわかる伝え方が必要となります.言葉だけでは伝わらない可能性があるため,実物や人体模型,写真,絵などを用いてコミュニケーションを取る必要性が出てきます.
当院内でも試験段階ですが,検査のためのイラストや写真を用いた説明の一部を記載させていただきます.(参照図2)

【図2】絵カード
絵カード
絵カード

 また,手話を少しでも使えるとコミュニケーションの幅が広がるでしょう.いくつか,表現を記載しますので参考にしていただけたら幸いです.(参照図3)

【図3】手話表現リスト
手話表現リスト
施設紹介

千葉県こども病院

こども病院
こども病院

 今回の施設訪問は千葉県こども病院を訪ねさせて頂きました.千葉県こども病院は千葉県小児医療の中枢機関として,小児医学向上のための調査研究を行い,母子保健,児童福祉に貢献を図ると共に,一般医療機関で対応困難な特殊医療を必要とする疾患のこども(15歳未満)を対象として,昭和63年10月1日に許可病床数200床で開設されました.平成9年11月に無菌室を無菌病室に用途変更し,一般病床に3床追加され203床となり,平成22年度から建設を進めていた周産期センターが平成24年3月21日にオープンし,現在224床となっています.周産期センターが出来たことで,出生直後から高度な治療を要する場合には,千葉大学医学部附属病院等との連携により,妊娠中から千葉県こども病院で受け入れて母親の分娩が行われ,新生児に対する,より効果的な管理と治療を早期から行うことができるようになりました.
 診療部門は,小児の内科系・外科系のあらゆる専門診療科を設けています.
 内科系:感染症科,内分泌科,代謝科,血液・腫瘍科,遺伝科,腎臓科,アレルギー・膠原病科,循環器科,新生児・未熟児科,神経科,精神科,集中治療科,小児救急総合診療科の13科
 外科系:小児外科,整形外科,脳神経外科,眼科,耳鼻咽喉科,形成外科,泌尿器科,心臓血管外科,歯科,産科,麻酔科の11科

 他の病院と大きく異なることは小児専門の病院であり,各年齢の小児に最適な環境や安全性を考えた構造が採用されています.病棟では年齢別,疾患別に分かれて治療や看護の成果をあげると共に,診断・治療に際しても小児に適した機器を設備し,医療の充実を図っています.また,集中治療部門を設置し,新生児疾患や重傷患児の対応を図っています.専門医療の実施に必要な相談・指導部門を設置するとともに,必要な臨床研究を行っています.

こども病院前
こども病院前
周産期センター
周産期センター

 取材にあたり,検査科と,放射線科を統括する中山検査部長に話を伺いました.出身国を愛しており,甲斐を代表する戦国大名,武田信玄の旗指物に記されたとされている「疾如風,徐如林,侵掠如火,不動如山」が検査科技師室内のあちらこちらに見られます.

中山検査部長
中山検査部長

 検査科の総スタッフ数は23名で,その内訳は正職員15名,再任用職員1名,嘱託職員4名,パート職員1名,技師以外として生理検査等の受付担当2名で構成されているそうです.夜間勤務は1名体制で,日勤帯の仕事の後,01:30までが当直帯,08:30までが宿直帯となります(日祭日は日勤帯と夜勤帯は別のスタッフが対応).夜間勤務は月2~3回程度まわってくるとの話でした.夜間勤務の項目は緊急項目のみに絞り,勤務状況に関しては日によりまちまちだが,多い時には次から次と検体が来るとのことでした.今後は周産期センターが本稼働になれば,今以上に忙しくなるだろうとのお話でした.
 こども病院ならでの特性として,様々な先天性疾患の患者が来られます.特に代謝異常症の鑑別において,一般の病院には配備されていないアミノ酸や有機酸分析が有効とのことでした.また,子供の検体は量が少なく検体の取り扱いに苦慮するとのことでした.その他,チーム医療としてNST,ICTにも積極的に関わっているとのお話でした.

【生化学・血清検査部門】
 生化学・血清検査部門では勝間田技師に話を伺いました.生化学自動分析装置はTBA-2000FRを使用しています.検体プローブの可動位置が一定なためデータの安定は良いとの話でした.こども病院ならでの特徴としては,検体が小児のため年齢別の基準範囲を設定しているとのことでした.また,検査システムのセキュリティー対策にも力を入れていました.検査システムの管理端末にUSBキーが設定され取り外すとシステムにアクセス不能となります.また,システム操作自体も管理者権限により操作レベルが細かく設定されていました.現状で,検査データは画面を開けば誰でも見られる環境にあるが,将来的にはそれも制限する必要があるのではないかとのお話でした.あと,話の流れとは全く関係ないのですが個人的にツボにはまったのが免疫測定装置のアーキテクトにかかっている本日のメニューです.キャラクターがマニアックなことと微妙なギャグが素敵です.遊び心は大事だと思います.

生化学自動分析装置TBA-2000FR
生化学自動分析装置TBA-2000FR
基準範囲TP
基準範囲TP
免疫装置アーキテクトと本日のメニュー
免疫装置アーキテクトと本日のメニュー

【細菌検査部門】
 細菌検査部門では佐藤技師に話を伺いました.子供たちにとって感染症は非常に重要な検査です.ウイルス抗原検査としてRSウイルス,ロタウイルス,ノロウイルス,アデノウイルス,インフルエンザウイルス等の多くの項目に対応しています.また,院内での細菌検査は重要度も高く,毎朝,感染症科の先生やICNが感受性の結果を確認しにくるとのお話でした.パルスフィールドゲル電気泳動による微生物の遺伝子型分析も年に数回行うとのことでした.大変なところとしては,肺炎球菌など毎日管理しないと死滅してしまう細菌も多いため365日休まずお仕事との話でした.担当としては正職員2名,嘱託職員1名で対応されています.

細菌検査室
細菌検査室
パルスフィールド
パルスフィールド
全自動同定感受性装置Phoenix
全自動同定感受性装置Phoenix

【血液検査部門】
 血液検査部門では大野技師に話を伺いました.通常の血液検査業務においては検体量が少ない検体が多いとの話でした.また,こども病院ならでの特徴としては,千葉県下の小児における遺伝性血液疾患や血液腫瘍の患児の多くが来院するとの話でした.白血病の子供たちへの治療方法の一つとして,末梢血幹細胞移植(PBSTC),臍帯血移植(CBT)等の幹細胞移植が上げられます.移植前には-80℃で保存された細胞の一部をトリパンブルーで染色し生細胞数を数え移植の生着率判定を行うとのお話でした.トリパンブルーによる染色は時間が経つほど細胞が死滅してしまうため時間勝負でカウントを行うとのお話でした.

自動血液分析装置XE-5000i
自動血液分析装置XE-5000i
血液検査室
血液検査室

【輸血検査部門】
 輸血検査部門では伊藤技師に話を伺いました.分画製剤は薬剤部で管理していますが,その他については全て輸血検査部門で管理を行っているとの話でした.こども病院ならではのお話を伺ったところ,まずは他院に比べ母親由来の抗体が見つかる頻度が高いとのお話でした.また,対象が乳幼児・小児のために使用量が少ない事も多く,製剤を状況によりテルモ無菌接合装置で二分割にして使用しているとのお話でした.新生児などの場合は注射筒に入れた60mlを8時間かけて使用する事もあるそうです.そのため,臨床からは輸血照会用のシールを注射筒に貼付し払い出して欲しいとの要望があるとのお話でした.

輸血検査装置Auto Vue Innova
輸血検査装置Auto Vue Innova
テルモ無菌接合装置
テルモ無菌接合装置

【一般検査部門】
 一般検査部門では仲澤技師に話を伺いました.学童期のこどもが多いため春休みや夏休みには検体が増加するとのお話でした.また,尿量を十分に採取できないケースも多く沈渣などは,どうしても参考値での報告が多くなるとのお話でした.

尿分析装置AX-4280
尿分析装置AX-4280

【病理検査部門】
 病理検査部門では中山検査部長と丸技師の両名にお話を伺いました.H19年12月の特定化学物質障害予防規則等の改正によりホルマリン対策がなされています.

ホルマリン対策
ホルマリン対策

 次に目につくのは,こちらの包埋センターです.昭和63年の開院当初からあり日本で稼働している最後の一台と言われているため更新に戸惑いを感じるとの話でした.

包埋センター
包埋センター

 こども病院には透過型と操作型の電子顕微鏡があります.透過型電子顕微鏡では検体としては腎生検の検体が年平均20件程度,その他に肝生検,腫瘍組織などの依頼があり,標本作成までの工程が長く,細かい作業も多く含まれるとのことでした.また,こども病院ならでの特徴としては,ミルクアレルギーの子供なども多いため便中の好酸球をエオジノステイン(鳥居製薬)で染めて検査を行っていることや,消化管の蠕動運動を司る神経叢が欠如しているヒルシュスプリング病の診断の際には,通常のHE染色の他にアセチルコリンエステラーゼ組織化学染色を行い神経線維や神経節細胞を染め分け確認しているそうです.検体としては小さなものが多く,マルクのクロット検体や周産期センター開設に伴い胎盤も検体として提出されるようになっているとのお話でした.

左上:透過型電子顕微鏡用ウルトラミクロトーム,左下:透過型電子顕微鏡用標本,右:透過型電子顕微鏡
左上:透過型電子顕微鏡用ウルトラミクロトーム,
左下:透過型電子顕微鏡用標本,右:透過型電子顕微鏡

【生理機能検査部門】
 生理機能検査部門では竹下技師に話を伺いました.こちらでは子供が安心できるように様々な工夫がされていました.心電図室の入口には,これから何を行うのかを子供たちに判り易く絵で示してあります.室内は子供たちに不安を与えぬようにピンクを基調とし玩具が配置されています.

心電図室
心電図室

 こちらのぬいぐるみは,写真では判りませんが中に音源が組み込まれており心音が鳴ります.心電図の電極は小児用に半分の大きさにカットして用意されていました.また,ホルター心電図を採る際にはバッグを前面に配置すると子供が弄ってしまい誤作動の原因となるため背負えるようにリュックを用意してありました.

ぬいぐるみとホルター心電計用リュックサック
ぬいぐるみとホルター心電計用リュックサック

 脳波検査室では心電図検査室同様に,子供たちが不安を覚えぬように手順を図示してあります.また過呼吸による負荷を与える際も子供たちに判りやすく説明するため,かざぐるまが用意してありました.その他にもエコーをとる際に乳児が安定するようにU字のクッションを置き,ベッドサイドにモニターを用意しアニメを流すことにより子供が飽きずに検査できる等の工夫がされていました.また,トレッドミルでは傾斜を上げると危ない場合もあるので子供たちに合わせてプロトコルを変更させているとのお話でした.

脳波手順
脳波手順
生理検査部門の皆様
生理検査部門の皆様
検体検査部門の皆様
検体検査部門の皆様

 取材時に入院している6歳ぐらいの子供たちの姿を見ました.楽しそうに笑っていましたが,何かしらの疾患を持っていると思うと元気に退院して欲しいなと心から思いました.子供が安心して医療を受けられる小児専門の病院としてこれからも在り続けていてほしいと切に願います.今回の訪問に際しまして,ご協力頂いた中山検査部長はじめスタッフの皆様に御礼申し上げます.今後も益々のご活躍を祈念いたします.

(秦暢宏, 里村秀行)

研究班紹介

血液研究班の紹介

順天堂大学医学部附属浦安病院
澤田朝寛

 今年度より血液検査研究班の班長を務めさせていただきます,順天堂大学浦安病院の澤田です.血液検査に従事する検査技師は,臨床検査値は元より疾患を推察する能力,異常細胞を形態学的に判断する能力,さらに,それらを総合的に考えて臨床医を正しい診断へ導くために,総合的に説明できるようなコミュニケーション能力など臨床検査技師に必要なすべての能力が必要とされています.
 そんな血液検査に従事する会員の皆様の日常検査における更なるレベルアップへの貢献を目指して,今年度より血液検査研究班は数名の新班員を迎え,現在10名の班員で運営しています.今年度の血液検査研究班の主な事業として,年3回の研修会および千臨技精度管理事業を計画しています.研修会では新たな試みとして,「今さら聞けない血液検査」と題したシリーズ企画を考えています.この企画は,各施設で当たり前のように日常業務で行われている血液検査を改めて考える企画です.臨床検査には様々な分野があると思いますが,特に血液検査領域は,代々の先輩から引き継がれてきた様々な運用や方法,さらに施設基準などが存在します.しかし,その根拠は? と考えると,「ただ,なんとなく・・」「従来から行われているから・・」「先輩から聞いたから・・」といった曖昧な場合も多々あります.中には,その運用を少し見直しすることによって,もっと合理的に業務を運用できる場合や,施設基準が現在の一般的な基準から外れているのを発見する場合があるかもしれません.そこで,「今さら聞けない血液検査」シリーズでは,できるだけ身近なテーマを題材にして,各施設の運用や基準などを紹介することにより,他施設の運用を参考する場や,自施設の基準と比較して見直しをする機会を会員の皆さんと一緒に考えていきたいと思っています.
 千臨技精度管理事業に対しては,今年度のサーベイより従来の生標本を配布する方法を見直して,血液画像を使った方法を検討しています.生標本を使用する問題点としては,同じ細胞を評価できないため,血液細胞分類の施設間是正が困難という問題がありました.そこで,今年度は血液細胞の画像を使って,同じ画像を各施設で評価することにより,施設毎の細胞分類の傾向や一致率などを把握して,施設間差是正に向けて努力したいと考えています.
 血液検査に従事する検査技師は冒頭に申し上げたように,場合によっては高い専門的な知識や経験が必要となります.しかし,千葉県には血液疾患を専門に扱う施設ばかりではありません.全ての施設が血液検査のスペシャリストになるのは難しいかもしれませんが,なにか問題や疑問があれば,近くの基幹病院に気軽に相談でき,施設間の点と点を結ぶような連携を構築するのも血液検査研究班の務めだと考えています.そのためには是非,研修会に足を運んで頂きたいと思います.会員の皆様と共に研修会を通じて日常検査における更なるレベルアップと施設間の連携を目指して,血液検査研究班一同取り組んでいきたいと考えております.ご協力よろしくお願い致します.最後に,血液検査研究班では我々の活動に賛同して頂き,一緒に協力して頂く会員を広く募集しています.ほんの些細なご協力でも結構です,血液検査に対してやる気のある会員様は班長までご連絡をお待ちしています.

順天堂大学浦安病院
澤田朝寛
047-353-3111(内線3303)