第37回関東甲信地区医学検査学会特別企画(シンポジウム) 2000.10.14-15

細菌検査部門で行える臨床支援の実践
−塗抹検査を中心に−

千葉市立病院検査科  郡 美夫

 微生物検査の役割は、感染症を疑う患者検体から病原微生物を推定あるいは決定し、治療に役立つ抗菌剤を選択するための情報を臨床側に提供することにある。そして、これらの情報が患者の診断と治療に役だってこそ検査を実施した意義がある。
病原微生物の検索に当たり、培養という手段を中心に据えた検査法では、どうしても最終報告まで数日を必要とし、その時点では患者の転帰が決まっていることもまれではない。今後は、培養中心の検査法から迅速検査を積極的に取り入れた、感染症診断法へと比重を移す必要がある。
 どのような迅速検査を採用するかは病院の規模と性格、採算性、必要度などにより異なるが、どの医療機関でも実施可能であり、必要性の高いものは塗抹検査であろう。この検査法は細菌検査を実施するうえで基本的なものであるが、緊急検査項目として対応している施設は以外と少なく、迅速診断法としての有用性を再評価する必要がある。
 当検査室では塗抹検査を緊急検査項目とし、30分以内に結果を報告するようにしている。その際、可能な限り菌種を推定して報告している。依頼検体は喀痰、後鼻漏、糞便、髄液、胸水、尿などであるが、なかでも喀痰の依頼が最も多く、特に小児科から提出される喀痰は全て緊急検査扱いとなっている。そして患者の約80%が塗抹結果から抗菌剤使用の適否か決定されている。また1999年の1年間に内科外来から提出された喀痰の56%、糞便の21%が緊急塗抹検査依頼であった。
 我々は洗浄喀痰を用い塗抹検査と培養検査を行っているが、緊急塗抹検査を実施した小児由来喀痰(Geckler分類:4、5群)890検体について塗抹所見と培養結果の一致率を検討した。塗抹陽性例は294例あり、そのうち培養結果と完全に一致した症例は208(71%)であった。また塗抹陰性例は596例あり、培養においても病原菌が分離されなかった症例は457例(77%)であった。合計すると、塗抹検鏡結果と培養検査の一致率は75%であった。この結果はすでに報告されているものと比較しても、高い一致率となっている。その理由は喀痰を洗浄し上気道の汚染菌を除いていること、また、小児の場合はCompromised hostでない限り、下気道感染の原因菌はHaemophilus influenzae, Branhamella catarrhalis, Streptococcus pneumoniaeの3菌種がほとんどであり、成人に比べ塗抹検査による推定菌が容易であることなどが考えられた。
 小児における喀痰塗抹検査の有用性をしめしたが、成人においてもその意義は高い。また喀痰に限らず、微生物検査室に提出される多くの検体でも同様である。多くの微生物検査室では日常的に、臨床材料からのグラム染色は行われている。しかしその活用法は精度の高い検査を実施するために利用され、塗抹検査から得られた情報は微生物検査室から外に出ることは少ない。リアルタイムに検鏡結果を報告し、診断と治療に役立てることが重要と思われる。