第37回関東甲信地区医学検査学会特別企画(シンポジウム) 2000.10.14-15

検査室における臨床支援の試み

    名古屋大学医学部附属病院 検査部 森下芳孝

 人口の高齢化が急速に進展する中で、医療技術の進歩とともに、医療は高度化・多様化し、保健、福祉なども含めて国民の医療への関心・ニーズも高まり、医療を取り巻く環境は著しく変貌しつつある。このような状況下で、政府は医療費抑制策の他に、患者負担の医療費の適正化、患者への良質で適切な医療の提供、医療と福祉の連携など、医療制度の改革を行いつつある。

 我々、検査室側としては、患者に良質の医療を提供するために、(1)患者の臨床状態に応じた適正な検査依頼がなされ、(2)検査室から良質な検査結果が報告され、(3)その結果が臨床医に適正に判断され有効に活用されるようにすることが重要と考える。そのためには、臨床検査医とともに検査学に精通する技師が臨床検査の適正な利用を支援する事が必要である。
 まず、(1)の適正な検査依頼については、検査項目の選択に対し臨床医への提案・助言も時には必要である。これは、患者の診療にとって無駄な検査をなくし、患者医療費の削減にもつながる。次に、(2)に関しては測定結果の質(Quality)が問われるものであり、長年来より我々臨床検査技師はそれを得るべく努力してきた。これらは種々の外部精度アセスメントの普及により、また、日本臨床衛生検査技師会や日本臨床化学会の標準的測定法の確立や標準物質の普及により良質な検査結果が得られつつある。最後の(3)の検査結果が臨床医によって適正な解釈がなされるためには、種々の検査結果に付加的情報を加え臨床支援することが必要である。
 今後、検査室は検査を行うことのみに専念するのではなく、患者ケアを中心に考えた医療チームの一員として検査の依頼から測定そして検査結果の適正な解釈までをも含めた医療サービスを行っていく必要がある。
 本シンポジウムでは、日常業務として私自身が行ってきた臨床支援について具体例をあげて紹介する。

<検査報告書にコメントを付記することによる臨床支援>
 多くの検査室では分析担当者が担当項目についてX-R管理図法やツインプロット法などを用いて精度管理を行っている。当施設では、さらに患者1人1人について個別データ管理として報告書の全データ(臨床化学検査、血清ウイルス検査、血液化学検査など)のチェックを部門主任の医師と私の2名で行ってきた。例えば、BCG法のアルブミン値と蛋白分画値のアルブミン値、IgG値とγ-グロブリン分画値、1,5-AG値とHbA1C値、血糖値などで各々の分析担当者が異なる場合では項目間のデータのチェックも必要だからである。同時にデータを解釈する上で臨床医が見落とし易い注意事項や検査室側でないと分からない点についてはコメントを付記して報告している。

1. 電気泳動像にコメントを付記する:血清蛋白の電気泳動パターン、免疫電気泳動パターン、リポ蛋白電気泳動パターン、LDHアイソザイムパターンなど
2. 測定結果が正しく解釈されるためのコメント:@溶血、アルブミンの影響、A採血後の検体取扱が不適当な場合、B異常反応を示した場合など
3. 検査依頼の仕方に対してコメントを付ける:@依頼方法が不適当な場合、A保険診療上で査定減の対象となる場合

<適正な検査依頼がなされるための臨床支援>
1.  検査依頼ガイダンス「検査依頼マニュアル」の発行:看護婦および臨床医向けに小冊子を発行
2. 臨床側へ検査部情報の伝達:測定法の変更時に従来法との相関図など