第37回関東甲信地区医学検査学会特別企画(シンポジウム) 2000.10.14-15

検査値統一化の必要性 ―徳島県における検査値統一化の実践―

徳島大学医学部附属病院 検査部 永峰 康孝


【はじめに】
 徳島県では平成元年(1989年)より本格的な検査値統一化の活動を開始し、検査値のみならず基準範囲の共有化も実践してきた。さらに、本年4月には県下一斉に酵素6項目においてERMを基準とした標準化を実践して大きな成果をあげた。
 今回は徳島県における酵素項目の標準化活動の実践について述べる。

【活動方針】
 施設間差是正委員会を発足時の主な活動方針は、1)施設間差是正の実践を行う、2)全施設の参加をめざす、3)是正項目を絞り短期化に是正する、4)臨床上問題のないレベルでの収束をめざす、などであった。

【酵素項目における標準化の沿革】
参加施設は一般病院のみならず保健所、医療支援施設や衛生検査所を含む、臨床検査技師が勤務し、院内で検査を実施しているほとんどの施設の参加が得られた。
 まず標準化作業に対しての信頼性を得るためにNa、K、Clの施設間差是正に着手し成果を収め、委員会への信頼を得た。その後1990年にAST、ALTの施設間差是正に取り組んだ。基準の設定は、実測Kファクターによる検量法で、JSCC準拠試薬を用い、ヒト由来酵素標準血清の表示値を参考にしてプール血清に値付けを行った。その結果、12.4〜17.3%あった施設間差は約5%前後にまで収束した。
 1991年にはLD、CKの是正活動を行ったが、LDに関しては勧告法のL→P反応ではなく、P→L反応での是正を実施した。その主たる理由は、当時9割以上の施設がP→L反応の試薬を採用していたこと、L→P反応にすると基準範囲が約半分になり臨床上の混乱をきたすのではないかという危惧からであった。
 1992年にはγ-GTの是正を行ったが、当時はSzaszの条件を暫定基準とした。これは、準拠試薬が特許上の問題があったこと、いきなり勧告法に移行するとすべての施設の検査値をかなり高値に是正する必要があった、そのため暫定基準を設け是正活動を行った。
 ALPは、我が国の勧告法が世界の中で独自の緩衝液を採用していること、また、準拠試薬の安定性にも問題がみられたため、あえて標準化活動を行わなかった。
 ALP、γ-GTの勧告法による標準化作業は1997年より始めた。その後、ERMおよび検量用ERMの有用性の検証を行い、2000年4月より酵素6項目は、ERMを基準とした標準化活動を開始した。
 その他、標準化作業の一環として、基準範囲の設定、徳島県医師会誌への起稿、各種マニュアル作成、個人の生理的変動幅の算出、医学的に有用な施設間差是正の最終ゴールの設定、などの作業を行ってきた。

【成果】
 JSCC対応試薬の採用率は78%(LD)〜100%(AST、ALT、CK)となった。
施設間精度(CV)は1.8〜5.4%の良好な成績が得られた。JSCC対応試薬を採用している施設で検量用ERMを用いて検量を行った施設は、75%(AST、ALT)〜98%(LD)であった。本県是正委員会参加10施設のCVは1.3〜2.8%の極めて良好な成績が得られた。さらに、委員会が推奨している基準範囲に関しても多くの施設が共有し、その上限値でみると、全参加施設の73.8%(ALP)〜89.4%(AST、ALT)が共有した結果が得られた。

【まとめ】
 幾多のプロセスを経て標準化作業がなされ、酵素項目の施設間差は臨床上問題がないレベルまで是正されてきた。さらに、判定基準となる基準範囲も多数の施設で共有しており、
どこで測定しても同じ結果がえられ、その判定基準も同じ、という理想に近づきつつある。