平成15年 10月25日〜26日 
第8回 微生物研究班一泊研修会

講演プログラム

10月25日

    1)「ブドウ球菌の毒素とMRSAの検査」       15001530

        講師:デンカ生研株式会社           間島 弘  氏


    2)「検査目的を考慮した微生物検査」       15401700

        講師:千葉大学医学部附属病院 検査部     久保 勢津子 技師


10月26日

    1)「安全キャビネットの性能と使用上の注意」   900950

              
講師:日本エアーテック株式会社        後藤 浩  氏

    2)「婦人科領域の微生物検査」          10001130

      −診断的価値と効率性・経済性を高めるために−

        講師:順天堂大学医学部附属順天堂医院 検査部 中村 文子 技師



講演プログラムから中村文子技師より要旨をいただいておりますので掲載いたします

婦人科領域の微生物検査  −診断的価値と効率性・経済性を高めるために−



はじめに

婦人科領域の検査材料は,内性器と外性器に分けられる.内性器は骨盤腔内にある生殖器由来材料で,原則として常在菌は存在しないので嫌気性菌を含めたあらゆる菌種の検出に努めなければならない.これに対し外性器は,外界に通じるいわゆる‘粘膜’であり常在菌が多く存在する.

腟分泌物は,侵襲性が少なく比較的簡便に採取できることから,微生物検査室に最も多く提出される婦人科材料である.ここでは腟分泌物の検査法を中心に述べる.


I.腟分泌物の微生物検査

 腟分泌物の微生物検査の目的は@STDの診断、A腟炎/腟症の診断、B妊婦における胎児・新生児への産道感染菌のスクリーニング、が挙げられる.効率よい感染症診断をおこなうためには、この検査目的が明示されていることが望ましい.

1)STD関連微生物の検査法

STD関連微生物としてN. gonorrhoeaeC. trachomatisT. vaginalisM. hominisM. genitaliumなどが挙げられる.

STDの決定は患者のプライバシーのみならず社会的影響も大きいので、特に慎重に行う.しかしながら、STDの診断の遅れは種々の付属器炎(骨盤腔内感染症、卵管炎、肝周囲膿など)に進展する場合があり、検査成績の報告は迅速におこなう必要がある.グラム染色所見やEIAや蛍光抗体法、遺伝子増幅法などの迅速検査の成績は、可能な限り即日のうちに報告する.

2)細菌性腟症関連微生物の検査法

成人女子の腟内はLactobacillusが最優位菌として常在菌叢を形成している.細菌性腟症とは、この常在菌叢が崩れた結果おこる特定の微生物によらない細菌感染症をさす.Lactobacillusが減少すると他の細菌が繁殖しやすい環境となり、@腟内pH上昇、A帯下増量、Bアミン臭、Cclue cell、が出現する.WHOではこの4所見を細菌性腟症の診断基準としており、3つ以上満たす場合に本症である可能性が高い(Spiegelの診断基準).

塗抹検査:細菌性腟症は菌叢の崩壊から発生する病態であるため、腟分泌物中のLactobacillusの増減や他菌種の有無を観察し報告することは診断的価値が高い.グラム染色標本を用いた細菌性腟症診断法のひとつにNugent scoreがある.本法はLactobacillusG. vaginalisを含むグラム陰性小桿菌、Mobiluncusの菌量から腟内の菌叢を数値化して判定するものであるが、@グラム陽性球菌や酵母様真菌などによる感染症では本法で判定できない,A高齢者では本法による診断と臨床症状の相関が悪い,ことが問題点として残る.

培養検査細菌性腟症の原因菌の検索には、嫌気性菌を視野に入れた培養検査を行うことが望ましいとされている.しかしながら本症は@塗抹検査所見からの判定が可能であること、A多くは嫌気性菌(MobiluncusP. biviaP. desiensP. anaerobiusなど)や微好気性菌(G. vaginalisS. milleri group:特にS. anginosus)によること、B嫌気性菌の検索には長期間を要する等の理由から,時に培養検査の省略も可能であると考える.

3)妊婦における腟内菌叢のチェック(スクリーニング検査)

 腟内に存在する菌種のうち胎児や新生児に重篤な感染症を引き起こす可能性のある菌種を検出し、産道感染の機会を未然に防ぐことを目的とする。

検索すべき菌種:新生児に敗血症や髄膜炎を引き起こすS. agalactiaeL. monocytogenesE. coli、膿漏眼や結膜炎の原因となるN. gonorrhoeae、鵞口瘡や先天性皮膚カンジダ症の原因となるCandidaなど.

検査法:上記菌種は少ない菌数(塗抹検査で確認できない)でも検出の意義が高いことから、増菌培地や分離培地を用いた培養検査は必須である


おわりに

腟分泌物の検査法について概略を述べた.効率よい検査を行うためには、@患者の年齢を確認(閉経年齢層では生理的な常在菌叢の崩壊がおこるため),ALactobacillusの菌量(常在菌叢の崩壊の有無),B他菌種の存在(感染症の起因菌?),C菌種の推定(特に嫌気性菌の有無)をチェックすることで,病態を反映したグラム染色所見の報告ができると考える.微生物検査成績が臨床において有効に活用されるよう、日頃のトレーニングや技術向上のための努力も必要である.


引用文献

1) 桑原慶紀:炎症および性病.p79-94. 標準産婦人科学 第1版 医学書院(東京).

2) 松田静治:細菌性腟症 Bacterial vaginosis. 産婦人科の実際 41649-6551992

3) 久保田武美:細菌性腟症の診断. 産婦人科の実際 47345-3521998

4) 熊本悦朗 ほか:性感染症 サーベイランス&ガイドライン.性の健康医学財団(東京), 2002

5) Miller J.M.: Specimen management policies and rational ?vaginal and endometrial specimens-. p45-48 A guide to specimen management in Clinical Microbiology.(2ed.) ASM press(Washington D.C)

6) Spiegel C.A et al : Diagnosis of bacterial vaginosis by direct gram stain of vaginal fluid  J. Clin. Microbiol. 18 : 170-177, 1983

7) Nugent R.P. et al : Reliability of diagnosing bacterial vaginosis is improved by a standized method of gram attain interpretation J. Clin. Microbiol. 29 : 297-301, 1991

8) 小栗豊子:感染症の迅速検査としての塗抹検査.p7-18. 臨床微生物検査ハンドブック 第2版 三輪書店(東京)

9) 中村文子:グラム染色からわかる感染症情報−婦人科系(腟分泌物を中心に)−第13回日本臨床微生物学会総会ワークショップブックレット p2740, 2002

10) 中村文子 :臨床検査技師のための臨床微生物検査Q&A〜腟分泌物〜 Medical Academy News  2002

11) 中村文子 :腟分泌物のグラム染色所見(Nugent score)を用いた細菌性腟症診断の有用性.日本産婦人科感染症研究会誌 2003

12) 田中美智男:腟分泌物嫌気性菌検査のアルゴリズム作成の試み〜中小規模病院検査室の立場として〜.日本嫌気性菌感染症研究 3235-45, 2002




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