千臨技会誌 2002 No.1 通巻84

シリーズ 細胞レベルの病理学
21.ウイルス感染症(viral infections)
千葉大学大学院医学研究院腫瘍病理   梅宮 敏文
千葉県こども病院                         中山  茂
千葉社会保険病院                      岸沢  充
講  義 臨床検査の質の向上と精度管理について 順天堂大学浦安病院 検査科 科長      石  和久
研   究 A型・B型インフルエンザウイルスの実態
−最近の諸問題を含めて−
小 川 知 子 
研   究 インフルエンザウイルス迅速検査の現状 松戸市立病院 臨床検査科 
  ◎松野 恵子 高森 貴恵 鈴木 礼子
   橘高 協子 河原 進  染谷 貴美枝
研   究 千葉県におけるO-157の発生状況と検査法 千葉県衛生研究所 内 村 眞佐子
研   究 O157以外のVero毒素産生性大腸菌(VTEC)について 千葉大学医学部附属病院検査部
 同大学院医学研究院分子病態解析学*
○村田正太 久保勢津子 渡邊正治 斉藤知子
 宮部安規子 大橋絢果 菅野治重 野村文夫*
研   究 臨床検査室における人事考課
―ISO9001からの実践―
亀田総合病院 臨床検査室
   庄 司 和 行 
資   料 「各グロブリンクラスRF(IgM‐RF,IgG‐RF,IgA‐RF)及び抗ガラクトース欠損IgG抗体についての考察」 加  藤  恵  一
施設紹介 千葉県済生会習志野病院    



シリーズ
細胞レベルの病理学
21.ウイルス感染症(viral infections)
千葉大学大学院医学研究院腫瘍病理       梅宮 敏文
千葉県こども病院    中山  茂
千葉社会保険病院    岸沢  充


【はじめに】
 ウイルスには炎症性病変をおこすものが多いだけでなく、腫瘍化をおこすものや、胎児期感染が奇形の原因となるものもある。ウイルスは現在、生物界では最小のものであり、形態は球形、円筒型、正二十面体などさまざまである。ウイルスは20〜300nmの微粒子でDNAまたはRNAと、これをとりまく蛋白の殻capsidを基本成分とし、さらに脂質の被膜envelopeをもったものがある。
 今回はウイルス感染症とその特徴的な封入体を中心に実症例を交えて解説する。
【ウイルス感染症の組織像と封入体】
 組織学的所見は、ウイルスによりかなり異なる。ウイルスは感染後細胞内の核や細胞質内で増殖するので、最初の変化は細胞内に出現する。それらは核内封入体または細胞質内封入体である。ウイルスが感染している細胞の周辺に現れる細胞浸潤、免疫反応、壊死などは二次的反応で、ウイルスに特異的な所見ではない。
‡@封入体(inclusion body):ウイルス感染と思われる病巣部に核内封入体または細胞質内封入体がみつかれば、その所見から感染ウイルス の範囲がしぼられる。封入体は正常細胞にはみられなく、ウイルス感染が疑われるときは、できるだけ薄い切片を作製することが重要である 。ウイルスが細胞に感染し、増殖していく過程で、封入体は種々の像としてみられる。封入体には核内、細胞質内、両者を有する混合型の3 種類がある。核内封入体(intranuclear inclusion body)には、核全体を占めるfull型と封入体周辺にhaloを伴うCowdryA型がある。大 部分はDNAウイルスによる。封入体は通常好酸性、ときに塩基性で球状を呈す。核内封入が出現してくるとクロマチンの周辺凝集化、核膜 の肥厚や断裂がみられる。細胞質内封入体(cytoplasmic body)は、RNAウイルスによるものが大部分である。混合型は、サイトメガロ や麻疹ウイルスにより両者の封入体が形成されるものである。封入体は常にウイルス粒子を含むとは限らず、粒子のないものは感染による二 次的産物と考えられる。
‡A封入体の鑑別:核小体や細胞質内構造物、赤血球など封入体と間違えやすい像がしばしば問題となる。再生細胞の目立つ核小体はときに鑑別 困難である。封入体の特殊染色としてPage-green染色やlendrum染色があり、補助診断には有効な手段である。
【ウイルスの電顕像】
 成熟を完了したウイルス粒子をビリオン(virion)とよぶ。ウイルスの基本構造そのものは比較的単純であり、規則性に富んでいる。ウイルスは、粒子を囲む1枚の膜(エンベロープ envelope)の有無により2種類に大別することができる。エンベロープは、生物膜に共通する単位膜構造、すなわち脂質2層からできており、この膜に糖タンパクからなるウイルスの微細構造物が多数個埋め込まれてできたものである。微細構造物はノブまたはスパイクとよばれる。
【症例】
 今回提示する症例は、単純ヘルペスウイルスによるリンパ節炎の1症例である。一般に単純ヘルペスウイルスは口唇あるいは陰部粘膜などを侵すが、単純にリンパ節を侵すことはまれで、本症例はきわめて珍しい症例である。
【病理組織学的所見】
 小・中型リンパ球、好酸球や大型の免疫芽球様細胞の増殖を認める。免疫芽球様細胞の核内にエオジン好性の核内封入体を認める(写真−1 矢印)。核内封入体はPage-green染色で鮮紅色に染色されたが、胞体内にも同様の染色性を示す細胞が多数認められた。核内封入体を有する細胞は免疫染色でPan-T抗体に陽性であり、免疫蛍光法によりHSV(‡T型)抗原が検出された。
写真1 頸部リンパ節組織像 
H−E染色免疫芽球様細胞の核内にhaloを伴うエオジン好性の核内封入体(矢印)を認める。
【電顕的所見】
 ホルマリン固定、パラフィン包埋よりのもどし電顕標本であるが、免疫芽球様細胞の核内に網様体様の高電子密度物質からなる核内封入体を認める(写真−2 矢印)。核内および細胞質内に100〜200nmのウイルス粒子を認める(写真−3)。ヘルペスウイルスは、エンベロープをもつDNA型ウイルスでヘルペスウイルス科に属する。これらのビリオンは、外側よりエンベロープ、テグメント(tegument)、カプシド(capsid)、コア(core)とよぶ4主要構造からできている。テグメントは、エンベロープとカプシドの間に介在する構造で、両者を連結する機能的役割を果たしていると考えられる。ウイルス粒子の内部に位置する核酸(ウイルスゲノム)を包む蛋白殻のことをカプシドとよんでいる(写真−3b)。本症例では、核内ウイルス粒子はcoreが密なもの、二つに分割したもの、中空のものなど多彩な形態を示した。
写真2 電顕像 写真右上部の単核大型細胞の核内(N)に網様体様構造の封入体(IB)を認める。明らかに核小体(NL)とは区別できる。(R:赤血球)
写真3−a,b 電顕像 写真2の拡大像で、核内および細胞質内にウイルス粒子(V)を認める。3−bはカプシドとコアをもつウイルス粒子の拡大像。
【参考文献】
1.堀江弘、他:単純ヘルペスウイルスによるリンパ節炎の1症例、病理と臨床 Vol.6No.7 827-831、文光堂1988
2.倉田 毅:病理組織診断における電子顕微鏡の有用性、病理と臨床 臨増10:473 1992

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講  義
臨床検査の質の向上と精度管理について
順天堂大学浦安病院 検査科 科長 
石  和久

「はじめに」
 臨床検査は、今日の診療のなかでは、必要かつ不可欠なものとなっています検査結果無しでは,診断が確定しない場合も出てきています。最近騒がれているEBM(科学的根拠に基づく医療)やEBD(科学的根拠に基づく診断)など医療の質を保証する科学的根拠として検査結果が使われています。
 そして、その検査は病院内検査室にて実施されて来ているが、第四次医療法改定により各種規制緩和の一つとして必置義務の規制緩和により全面アウトソーシングが可能となっています。このような厳しい情勢のなか、検査室が21世紀を迎えどの様に形態を変化させ時代に適応して行くのかが今後の問題です。このような問題について私個人の私見として当院の現状を踏まえて”臨床検査の質の向上と精度管理について”述べてみたいと思います。コントロールサーベイに参加することが精度管理ではなく、常に現在の検査が臨床の要望に即応しているか考え続けることが大切であり、検査技師の意識改革の参考になればと考えております。
「制度管理」
 精度管理は、一般的に‡@技術管理‡Aデータ管理‡B業務管理の3種類に分類されます。
 精度管理調査=精度管理と考える人が多いと思うが、データ管理の外部精度管理の一つであります。精度管理の目的は,検体検査や生体検査で常に安定した検査結果を臨床医や患者に提供することであり、即ち検査結果を不安定にする各種要因の解析や修正・改善を実践し、常に信頼される精度の高い検査結果を臨床に返却し、良質な情報提供して行くことです。

‡@技術管理:検体を採取してから検査結果の報告までの作業を的確に行うことであります。
標準作業手順書(マニュアル)に基づいて作業をおこない、各種管理記録・日報を定期的に見直し、業務の改善に役立てることで技術精度を向上させる方法です。専門知識を持った臨床検査技師が行う採血は,より繊細な配慮が必要となってきます。検査の種類によっては,採血時の駆血や駆血時間により検査結果に影響が出る検査項目があります。また、採血から検体分離までの時間・温度や遠心条件が検査結果に影響することが多く、分析前の検体処理がその後の測定結果に大きく影響を及ぼすために検査工程の改善や工夫が重要となります。
 また最近では,臨床医より患者さんの診察前の待ち時間に検査を実施し、検査結果を見ながら診察する診療体制に変化してきています。診療の要望に合わせて受身ではなく進んで検査体制を整備するのも重要なことと考えます。
 常に患者を中心とした医療の見直しと検査は,検査技師がすでにチーム医療の一員になっていることを実感すべきだと思います。これらを、検査室の技師長や主任が考えることは、当然であるが、むしろ現場の検査担当技師の方が良いアイデアを提案できスムーズに作業環境を変化させることが出来ると思います。
 また遺伝子検査をはじめとする新しい検査項目の導入や見直しを変化して行く環境に応じてタイムリーに出し入れができる技術力を持つことだと思います。
 またこの技術管理の中には、患者を中心としての患者診療圏内での検査値や基準範囲の統一が必要となります。病院が変われば検査値が変わり再度検査をしなくてはならない環境は好ましくないと考えます。
 現在千葉県技師会で行っている検査値と基準範囲の統一は、基幹病院を中心とし地域内での検査値の共有化であり、検査の専門家である検査技師の手で実施されればチーム医療に検査技師が参加する良いきっかけになると思います。県内施設で検査を行えば、どこへ行ってもその値を使用できる日が来るのが楽しみです。これこそ地域に根ざした病―診連携や病―病連携に繋がり電子カルテやICカード導入にも大いに役立つこと考えます。臨床化学だけでなく標準化されてきている分野は,どんどん統一化を実施して欲しいと思います。また、現状では検査技師の得意分野・専門性や検査室の特色が他の施設から分かりにくくなっていますが、各施設や検査技師の情報を公開することにより地域の中での連携が取れるようになり施設の共有化に繋がって行くと思います。

‡A データ管理:検査結果が信頼できるものであるかを判定するため統計学的手法を用いて解析し、検証するもので、内部精度管理と外部精度管理があります。
 内部精度管理は、プール血清や管理試料を用いて毎日測定しX-Rs管理図やツインプロットによりいつも同じ結果が出ているか管理する方法が多くの施設で利用されています。また、日常測定している患者の数値を利用した管理法(P管理図法、正常者平均値法、ヒストグラム法、反復測定法、項目間相関法、前回値チェック法)を使用すれば管理することが出来ます。
 このような内部精度管理を実施していても、毎日管理試料を測定することが目的になっていたり、結果の差が出ないように修正するようでは意味が無いと思います。また、せっかく毎日検査測定し作成した管理図などの評価を他人任せにするようでは精度が良くなるとは思えません。管理図を作れば検査精度が良くなるわけではなく、管理限界を超えたとき原因を追求し、再度起こらないよう専門知識を駆使し改善することが重要と考えます。精度管理は、管理者が評価するものだと勘違いしている人たちがいると思いますが、現場の悲鳴を上層部に伝えるのが精度管理であると私は考えます。
 外部精度管理は、検査をどの施設で測定しても同様な精度と検査結果が得られるか検証するためのもので、施設間での検査結果の互換性と施設間差を縮小させる目的のものです。
 具体的方法としては、施設間においての検査結果の互換性を検証するクロスチェックと全国的な施設間差を縮小する目的で行われるコントロールサーベイがあります。検査結果が施設内ではよく再現されていても他の施設と差があったのでは、これからのEBMには、対応出来ません、このため検査の正確さと恒常性の確認を行う必要があります。外部精度管理は、ただ参加するだけでは意味がなく、集計された結果について施設ごとに独自に基準を設けて評価し問題点を見つけ改善に結びつけることが重要と考えます。全国的な大規模なサーベイとしては、日本医師会と日本臨床衛生検査技師会があります。そして地域を主眼とした千葉県臨床衛生検査技師会主催およびメーカー主催のコントロールサーベイがありますがそれぞれの問題点に触れてみたいと思います。
 日本医師会サーベイ、これは直接参加施設長に評価点数として送付されるため、影響力の多い精度管理調査です。しかし最近では、統計処理にこだわりすぎてメーカー誘導型になっています。これは参加施設が情報収集するため、ユーザーの希望があればメーカーは動かざるを得なくなり総合点数評価が本来の目的とは異なった方向性を生み出しているような気がいたします。測定値が0.1違っただけでA評価からC評価になるなど、参加施設の収束がSDを生み出し評価につながっているがこれが本当に臨床的にみて優位な差といえるのか、医学と統計学では数字の意味は異なると考えます。JSCCなどの準拠試薬を使用し測定して精度管理試料を測定するとメーカーにより測定値が違った場合、マトリックス効果とか内容成分の問題となってしまうが生体試料では、問題なく同様な結果が得られるというのはどうも説得力に欠けます。この辺の問題を解消できる管理試料の開発が待たれます。また優れた技術力を持つのであれば試薬の特徴を捉え、様々な試薬を使用しても信頼性のある結果が出せるのではないかと思います。
 今回のサーベイのように血液試料が再度送付されても溶血しているなど運搬業者を含めて検査結果を手書き報告させるなどリスクに対する運用の再検討が必要と考えます。
 日本臨床衛生検査技師会のサーベイに関してFD報告などIT化への努力により速報集計報告などの改善は評価できます。しかし、問題は、フォトサーベイであります。細胞認定医の私でも判定に迷う症例があり、精度管理であるなら底上げが目的で、稀少例より典型例を中心に出題すべきではないでしょうか。これは、形態学・生理検査全般に言えることで特に生理では、症例より測定操作など技術的な問題出題が中心に出題されることを望みます。
 千葉県臨床衛生検査技師会のサーベイは、地域を主体に実施しているため、患者診療圏における検査値の共有化を含め精度管理調査結果の検査の専門職として遠慮せず具体的な評価をすべきだと思います。また、地域密着型管理により質の向上に結び付けられるよう基幹病院との施設連携や指導体制を強化すべきだと考えます。参加するだけでなく日ごろの問題を相談できる信頼関係を構築できたらすばらしいと思います。現在同時に進行している臨床検査値の統一との両輪で精度管理が進めばこれから実施される電子カルテや患者情報の共有化にも十分に対応して行けると思います。
  しかし、同一の検査試薬や測定系を使用している施設間での検査値の差はERMや基準物質などにより縮小されていても、基準範囲が従来の測定法を基にして作られていたり、施設間で異なっていたのでは問題があります。今後、専門学会有識者・業者・検査技師の3者間による共有化のための標準化が進められてゆくと思います。できれば検査技師が中心となって進めていければよいと思います。これは、法的地位の確立より職能としては、検査技師が臨床検査の専門家としての存在の確立につながると思います。

‡B 業務管理:運営・機器・精度・情報・検査技師教育・危機管理などがあります。
 運営管理は、決められたことが、確実に守られ改善されているかを定期的にチェックすることであります。私の病院では、検査科検討会・検査科適正委員会を毎週開催し、現状での問題点とその対策、検査項目の見直しや実施項目の外注などの出し入れを恒常的に実施して、合理化や適正化を図っています。また検査部門も今年度よりセクショナリズムを廃止する目的で、分野別から機能別に3部門に組織再編成を実施しました。第一系統;病理・輸血・遺伝子診断部門、第二系統;中央採血・生理機能検査・病棟外来支援部門、第三系統;検体検査・緊急部門かく部門の系統責任者を中心に業務を運営してゆくという方法です。
 さらに最終的には、ワンフロアー化・マルチタスク環境(検査室内いつでも・どこでも働ける)を目指しています。機器・精度管理は、毎日の日報、精度管理は、月報を元に記録に関しての迅速な評価・改善を確実に実施することだと思います。毒薬・劇薬やごみ・医療廃棄物等の取り扱いに関してもマニュアル作成や取り扱いに関する教育、さらには管理台帳をつけて常に監視体制を強化する必要があると思います。
 情報管理については、他部門との情報連携や臨床検査室情報システム・メンテナンスを含めた検査室内のLAN整備を含めたデータベース管理を常時実施することです。
 検査技師の中には、比較的情報処理に強い人もみかけられます。病院システムなど積極的に参画してゆくことも必要と思います。
 情報提供体制の整備は、メーカー誘導型ではなく病院の情報責任者を中心に診療に対応し、現在の業務体制に即応した形で実施することが重要です。検査技師教育;特殊な専門施設を除いては、検査全般の知識が必要であると思います。これからは、患者を中心としたチーム医療の時代が来ます。検査技師が検査室からその範囲を臨床現場に広げたとき21世紀での検査技師像が出来る気がいたします。とかく検査技師は、自ら仕事の範囲を設定しその殻から飛び出さない傾向があります。過去は過去で未来に向かって何が出来るかが検査技師が存在してゆくためには必要です。職場に就き現場教育(ローテーション)により様々な検査分野を経験し、数年後その中より自分に適している専門分野を選択しても遅くは無いと思います。また、患者とも触れ合い患者の苦しみを体験し、はじめて臨床検査技師としての自覚が出来るのではないでしょうか。机上論と現実には大きな隔たりがあります。これからは、検査技師も医事訴訟にも取り上げられるような時代になると思います。医療の専門職としての自覚と各種危機管理医療安全対策(リスクマネージメント)を身に付け臨床現場へと業務範囲を広げてゆくべきだと思います。他にもクリニカルパスへの参加や感染対策チームの一員として感染防止対策のマニュアル策定や検出状況やサーベランス統計調査など進んで参入してゆくことが必要と思います。
 こうした多くの精度管理の統合や運用を図ることにより検査技師の職種形成が確立すると思います。
検査技師会は、学会や研修会など生涯教育の場を提供しています。進んでその活動の仲間入りをして、生涯学習する習慣を身につけ、前向きに新しいものに日夜チャレンジして欲しいと思います。
「結 語」
 おわりに、思いつくまま普段考えていることを書きましたが、日常業務を実施してゆく上で参考になればと思います。精度管理の延長線上に“臨床検査の質の向上”があることを忘れないで欲しいと思います。千葉県臨床衛生検査技師会会員の皆様が、臨床検査の質の向上のために率先して活躍されることを祈ります。そして技師会は、地域における検査技師連携やデータの共有化の手助けとなり、さらには第三評価機構としての精度保障や認証事業も行っていって欲しいと思います。
「文 献」
1)Arnett,F.C.,et al:Arthritis Rheum.,31:315〜323,1988
2)Robbins,D.L.,et al:J.Rheumatol.,13:259〜262,1986
3)Tarkowski,A.,et al:J.Clin.Immunol.,12:129〜135,1983
4)Gioud-Paquet,M.,et al:Ann.Rheum.Dis.,46:65〜71,1987
5)Jakle,C.,et al:J.Rheumatol.,12:227〜232,1985
6)江崎一子、池:医学と薬学、24:1501〜1505,1990
7)Wernick,R.,et al:Arthritis Rheum.,26:593〜598,1983
8)伊藤美津子、他:病理と臨床、14:710〜719,1996
9)PoPe,R.M.,et al:Arthritis Rheum.,18:97〜106,1975
10)Theofilopoulos,A,N,,et al:Arthritis Rheum.,17:272〜284,1974
11)Hunchinson,R.M.,et al:Ann.Rheum.Dis.,35:138〜142,1976
12)浜田欣哉、他:臨床リウマチ、7:15〜21,1995
13)Lessard,J.,et al:J.Rheumatol.,10:411〜417,1983
14)神宮政男、他:リウマチ科、2:135〜138,1989
15)中野正明、他:リウマチ科、8:200〜208,1992
16)栗原夕子、他:リウマチ科、22:499〜510,1999
17)境田博之、:リウマチ、35:671〜677,1995
18)Westedt,M.L.,et al:Rheumatol.Int.,5:209〜214,1985
19)Arnason,J.A.,et al:Ann.Rhem.Dis.,46:380〜384,1987
20)Withrington,R.,et al:Br.Med.J.,291:1388,1985
21)Dunne,J.V.,et al:Ann.Rheum.Dis.,38:161〜165,1979
22)金子元英、他:リウマチ、39:339,1999
23)Mizuochi,T.,et al:J.Immunol.,129:2016〜2020,1982
24)Nose,M.,etal:Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,80:6632〜6636,1983
25)Hymes,A.J.,et al:J.Biol.Chem.,254:3148〜3151,1979
26)Parekh,R.B.,et al:Nature,316:452-457,1985
27)Bond,A.,et al:J.Immunol.,20:2229〜2238,1990
28)新沢穣太郎、他:医学と薬学、36:1083〜1089,1996
29)加藤恵一、:都臨技会誌、13:1〜4,1985
30)海老沢岳彦、他:臨床と研究、74:213〜218,1997
31)中野正明、他:J.Chubu.Rheum.Assoc.,27:61-62,1996
32)田窪伸男、他:リウマチ科、17:228〜234,1997
33) 近藤正一、他:臨床と研究、74:454〜458,1997
34)Soltys,A.J.,et al:J.Immunol.,40:135〜143,1994
35)土屋尚之、*蛋白質・核酸・酵素、37:1935〜1939,1992
36)Carson,D.A.,et al:J.Clin.Invest.,87:379〜383,1991
37)Newkrirk,M.M.,et al:Arthritis Rheum.,33:800〜809,1990
38)古田伸行、他:医学検査、49:505,2000
39)住田孝之:Molecular Medicine,38:368〜368,2001

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研   究
A型・B型インフルエンザウイルスの実態
−最近の諸問題を含めて−
小 川 知 子 

 ヒトインフルエンザウイルスは発見された順に、A,B,Cと命名されている。特にA,B型インフルエンザは、流行の規模に違いはあるものの、毎年のように発生しているのが現状である。かつてインフルエンザは一つの型による流行であったが、近年はA/H1N1(ソ連)型、A/H3N2(香港)型、B型が混在する流行様式が続いている。インフルエンザによる深刻な健康被害は、特に弱者である乳幼児と高齢者で問題であり、ワクチンによる予防の重要性が再認識されている。またインフルエンザ対策の上で画期的な役割を果たす「迅速診断キット」が開発され、同時に有効な「抗インフルエンザウイルス薬」が使用された。しかしそれに伴う「耐性株の出現」という新たな問題を抱えることになった。さらに香港で分離されたA/H5N1型およびA/H9N2型のような「ヒトでは経験のない亜型のインフルエンザウイルスの感染」等、人類にとって不吉な兆しが見え隠れしている。以下に昨シーズンの日本における流行状況の解析と、アマンタジン耐性株、ヒトでの新亜型インフルエンザウイルスの感染について述べる。

流行状況の解析(2000/2001)
 2000/2001シーズン、流行の開始は前シーズンより6週遅く、流行の規模も小さかった。流行したウイルスはA/H1N1型、A/H3N2型、B型の混在であり、その割合は38%、16%、46%であった。A/H1N1型は昨シーズンに続き2シーズン、A/H3N2型は1996/1997から5シーズン連続の流行であり、ウイルス側に抗原変異がほとんどなく、抗体保有率が高くなり流行を小さくしたものと考えられる。一方、B型は1シーズンをあけての流行であった。この型はVictoria系とYamagata系の2つの系に分かれているが、このシーズンの分離株の多くはYamagata系に属し、この系の中ではワクチン株と異なる株が多かった。またシーズンの後期にはVictoria系も少数分離され、このように2系が混在しながら流行したのが特徴であった。

アマンタジン耐性株の出現

 2000/2001シーズンにA型インフルエンザウイルスに感染し、アマンタジンを投与された小児34例の投与前後に分離したウイルスの耐性獲得状況を検討した。34名例21例から投与後もウイルスが分離され、そのうち10例(29.1%)がアマンタジン耐性株であった。この数値はアマンタジンを治療薬として用いた他者の報告とほぼ同等であった1,2)。また、投与前と、投与後の家族内感染例では、耐性株はみられなかった。耐性株の感染力および病原性は感受性株とほぼ同等との報告
2)もあるが、今後の検討課題と考えている。

ヒトでの新亜型インフルエンザウイルスの感染

 インフルエンザウイルスは、抗原変異を起こしやすい。レセプターの関係から、トリにはトリのインフルエンザウイルスが、ヒトにはヒトのインフルエンザウイルスが感染し、両ウイルスの遺伝子再集合の場としてブタが存在し、新型インフルエンザウイルスを出現させると説明されてきた。しかし、香港で起きた1997年のH5N1型、1998年のH9N2型インフルエンザウイルスは、トリからヒトに直接感染した(図1)。Hattaらはこのヒトから分離したH5N1型インフルエンザウイルスは、致死性株と非致死性株の2種類であり、その違いは、PB2遺伝子の627番目のアミノ酸がポイントミューテーションを起こし、さらにHAの開裂が起こりやすかったことが致死性株になったと報告している
3)。また,Mikhail N.Matrossovichらは,香港の家禽から分離したH9N2型インフルエンザウイルスは、レセプター結合部位がヒトH3N2型インフルエンザウイルスに似てきており、ヒトへの侵入の可能性が高まってきていると報告した4)。このようにウイルスは、ヒトを新たな標的にすべく巧みに変化してきていることに注目しなければならない。

 今(2001/2002)シーズン、A/H3N2型が仙台市より、B型が名古屋市で分離されたと報告されている。果たして今シーズンの流行はどのようであろうか。

参考文献
1) Hall CB, Dolin R, Gala CL, et al: Children with influenza A virus infection . Pediatrics 80:275-282, 1987.
2) Hyden FG, Belshe RB, Clover RD,Hay AJ, Oakes MG, Soo W: Emergence and apparent transmission-resistant influenza A virus in families. N Engl J Med   321:1696-1702, 1989.
3) Masato Hatta, Peng Gao, Peter Harfmann, Yoshihiro Kawaoka: Molecular Basis for High Virulence of Hong Kong H5N1 Influenza A Viruses. Science      293: 1840-1842, 2001.
4) Mikhail N. Matrossovich, Scott Krauss, and Robert G Webster: H9N2 Influenza A viruses from Poultry in Asia Have Human Virus-like Receptor      Specificity 281: 156-162, 2001.

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研   究
インフルエンザウイルス迅速検査の現状
松戸市立病院 臨床検査科 
  ◎松野 恵子 高森 貴恵 鈴木 礼子
   橘高 協子 河原 進  染谷 貴美枝

【はじめに】
 インフルエンザは冬から春にかけて毎年流行する伝染性の呼吸器疾患で、基礎疾患のない健康な成人では比較的良好な経過を取るが、高齢者や気管支喘息、慢性肺疾患、心臓病などの基礎疾患を有する成人や乳幼児などでは中耳炎、肺炎、心筋炎、筋炎、脳症などの合併症により重症化し、インフルエンザによる死亡の大きな原因となっている。
 インフルエンザについては数種の迅速診断キットが発売されており、1999年秋にはA型インフルエンザ迅速診断キット「ディレクティジェン(日本ベクトンディッキンソン社)」が保険収載され、その後、A,Bを同時に検出できるキット「インフルエンザOIA(第一化学薬品)」、「ZstatFluA&B(ニチレイ)」、「インフルA・B−クイック「生研」(デンカ生研)」なども発売されている。
 我々はこの検査の必要性を重視し、いち早く日常業務にこの検査を取り入れてきた。その現状について報告する。

【施設概要】
名      称:国保松戸市立病院
病  棟   数:631床(一般病床数623床感染症病床数8床)
診 療 科 目:22科内科、外科、小児科、産婦人科、整形外科、眼科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、放射線科、脳神経外科、皮膚科、神経内科、循環器科、麻酔科、小児外科、新生児科、心臓血管外科、消化器科、形成外科、救急部、診療精神科、呼吸器外科
特殊医療施設:
  ・第三次救命救急センター
  ・集中治療室(10床)
  ・小児医療センター
  ・成人無菌室(2室)
  ・無菌手術室(2室) 
 検査部門 臨床検査技師:33名 パート技師:6名
  ・中央採血室:2名
  ・検体部門:19名
  ・生理部門:17名
  ・体外受精:1名
インフルエンザ迅速診断については検体部門の中の血清検査室で実施している。

【実施内容】
実施期間:1999年12月から2000年3月
                 2000年11月から2001年4月
使用キット:日本ベクトンディッキンソン社
      ディレクティジェンFluA

【結果・考察】
1999年12月から2000年3月までの検体数 2000年11月から2001年4月までの検体数

 1999/2000年シーズンの受診のピークは2000年1月から2月にかけてで、陽性のピークは2000年1月である。2000年2月も同じくらいの検体数なのに対し、陽性数は下がってきているのが分かる。また、2000/2001年シーズンでは受診のピークは2001年3月なのに対して、陽性のピークは2001年の2月であり総数のピークの3月には陽性数は下がってきている。このことから2000年2月、2001年3月の陰性検体の中にはB型インフルエンザ陽性のものがあったのではないかということが推察される。
 次に所属別に検体を示す。
 当院には特殊医療施設として小児医療センターがあるため、提出される検体も0歳児から7歳児くらいまでが全体の50%を占めている。小児には適応されるB型インフルエンザの治療薬がないため、今のところA,B両方を測定できるキットはあまり意味がないということであったが、小児の適用薬としてシロップが近日発売される予定だということなのでそれによっては迅速診断キットの見直しが必要である。
 次に検体別のグラフを示す。
 
 1999/2000年シーズン、2000/2001年シーズンは提出された検体は咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、鼻汁の3種類であった。施設によって小児は咽頭だと嫌がるので鼻腔で実施しているようだが、当院ではほとんどが咽頭ぬぐい液であった。
 次にDr.別に分類した陽性率のグラフを示す。

ルーチンワークをしていて提出された検体についてAというDr.が提出する検体は陽性率が高いのにBというDr.は陽性率が低いのかという疑問から統計をとってみたものである。検体採取のスワブに関しては綿のスワブは使用できないが、キットに添付されているスワブを使うことに特に問題はないということである。咽頭ぬぐい液では他の検体に比べて若干精度・特異性は落ちるものの検体にも問題はないと思われる。インフルエンザ陰性あるいはB型インフルエンザ陽性ということも考えられるがうまく患部をこすれていなかったり採取後放置してしまったりということも考えられる。採取法や検体の取り扱いについての確立が必要である。
 次に、この検査を実際行ってきて感じたこと、体験談などをお話する。
【感じたこと】このキットだけではないが反応試薬などが滴下数で表示されている。1件や2件ならそうわずらわしく感じないが、4、5件も1度に出るとかなり面倒である。
【体験ケース‡@】血液の混入
 検体を採取したがかなり血液がついてしまった。小児なので取り直しは出来ない。その検体を使って検査をして欲しいということだった。インフルエンザ迅速診断キットの陽性は紫色である。検査をしてみたが抽出液がかなり赤く、陽性で紫色の反応なのか血液による紫色の反応なのか判定できず判定保留で報告した。後日メーカーに問い合わせしたが2%の濃度までは反応に影響なしということだった。2%の濃度はなかったと思うが判定できなかったケースであった。
【体験ケース‡A】検体の保存
 当院では夜間・日当直体制で業務に当たっている。小児科のDr.は夜間・日直時には自分で検査をするが他の科のDr.に関しては保存検体を検査することになる。室温では6時間で陽性率が半分に、冷蔵でも12時間で陽性率が半分になってしまうというデータがある。当院でも夜間冷蔵保存しておいた検体を検査したことがあるが検査結果は陰性だった。すぐに検査ができない場合の検体の扱いが今後の課題である。
【まとめ】
 Dr.の間で検体の陽性率にバラツキがあるので、検体の採取法や採取後の検体の取り扱いについて確立する必要がある。このキットを使用し始めた頃はまだ1社しかなく、またインフルエンザもA型しか検査できなかった。今は、A,B型を個別に検査できるキットからA,B両方を検出できるキットまで様々な種類のキットが開発・発売されている。保険点数がまだついていないことなど問題等あるかと思うが各施設がそれぞれのニーズに応じて選択していく必要があるのではないかと思う。

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研   究
千葉県におけるO-157の発生状況と検査法
千葉県衛生研究所 内 村 眞佐子

はじめに
 1996年の西日本を中心とした大発生以来、わが国における腸管出血性大腸菌O157の患者数は年間2000人前後で推移していた。しかし2001年の患者数は、広域集団事例の発生等に伴い大きくそれを上回ることが予想される状況にある。本稿では、血清型O157を中心に腸管出血性大腸菌分離状況について述べると共に、O157およびそれ以外の血清型を含めた腸管出血性大腸菌検査法について述べる。
千葉県における腸管出血性大腸菌分離状況
 1988年から2001年10月の千葉県における腸管出血性大腸菌分離株数は、1988年から1995年までは12株と少なかったが、1996年の西日本を中心とした大発生以来年ごとに増加し、2001年は10月末で369株を数えている(表1)。このような分離株数の増加と共に、近年の腸管出血性大腸菌分離状況の特徴は、血清型の多様化である。千葉県では、O157以外にO26(80株)、O111(10株)など9種類の血清型が分離され(表1)、全国では1999年現在約50種類の血清型が報告されている。これらO157以外の血清型の半分以上は市販血清には含まれていないことから、これまでのO157を主な標的とした検査法や血清型を指標とした検査法では、多様な血清型の腸管出血性大腸菌の検出を目的とした検査には対応できないと言える。
腸管出血性大腸菌の検査法
 腸管出血性大腸菌全般を検出するための検査法の一つとして、菌のベロ毒素(VT)産生性を指標とした検査を紹介する。検査の流れを図1に示す。分離培地は、腸管出血性大腸菌の中でO157の分離頻度が高いこと、およびVT産生菌の多くは亜テルル酸耐性を示すこと(現在までに千葉県で分離された436株のヒト由来VT産生株中亜テルル酸感受性株は2株のみである)を考慮して、CT-SMACを使用する事を奨める。便を分離培地に塗布し、37℃で一晩培養する。分離培地に大腸菌の生育が認められた場合、コロニーの色調に関わりなく平板上の濃厚発育部分を掻き取ってVTのスクリーニング試験を行う(コロニー掻き取り法)。VT検出にはラテックス凝集法(「VTEC-RPLA」デンカ生研:2〜3時間で判定)、イムノクロマトキット(「ラインジャッジVT」ベリタス:30分以内に判定)が利用できる。このスクリーニング試験でVT1あるいはVT2が陽性の場合、腸管出血性大腸菌陽性の疑いで分離平板から4〜5コロニーを釣菌し(CT-SMAC上ではO157以外の大腸菌は赤色コロニーとして生育するので注意する)、確認培養(あるいは簡易同定キット)を行い大腸菌であることを確かめ、血清型別と共に純培養菌株からの毒素産生試験を行い、腸管出血性大腸菌であることを確認する。
以下に,コロニー掻き取り法の概略を示す。
コロニー掻き取り法
1.ポリミキシンB(5,000u/ml)0.5mlにコロニー密集部を1エーゼ掻き取り混和する.
2.37℃で20〜30分振とう後3,000回転10分間遠心分離する.
3.上清を用いてVTを検出する.

 なお,本検査法に関する詳細は、内村眞佐子、便からのベロ毒素の検出法、検査と技術 28:231-236(2000)を参照してください.
表1 千葉県における腸管出血大腸菌分離状況
図1 便からの腸管出血性大腸菌検査の流れ

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研   究
O157以外のVero毒素産生性大腸菌(VTEC)について
千葉大学医学部附属病院検査部
 同大学院医学研究院分子病態解析学*
○村田正太 久保勢津子 渡邊正治 斉藤知子
 宮部安規子 大橋絢果 菅野治重 野村文夫*

 Vero毒素産生性大腸菌(verocytotoxin(VT)-producing Escherichia coli,VTEC){あるいは志賀毒素産生性大腸菌(shiga toxin-producing E.coli,STECとも呼ばれる)}は、3類感染症である腸管出血性大腸菌感染症の起炎菌であり、溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome, HUS)等を引き起こす場合がある。その発症にはVTが関与しており、これらのVTを産生する大腸菌の血清型はO157以外にも国立感染症研究所の病原微生物検出情報に示されるように多くの血清型が存在している。また市販血清に含まれない血清型も存在するためVTECの同定にはVTの検査が必須となる。このようなことから当検査室ではVTECによる集団食中毒が多発した1996年以降、市中感染が疑われる糞便検体から分離されたE.coliに対して、逆受身ラテックス凝集反応(RPLA)によるVT産生試験(図1)を先行し、VT産生性が認められた場合に血清型を調べている。この検査体制の施行より2001年9月までの期間にnon-O157VTECは5症例より分離された。これら5症例より分離された糞便由来のnon-O157VTECについて、血清型および分離された培地等を調べた。その結果、表1に示すように市販血清に含まれない血清型は2症例から分離され、千葉県衛生研究所または国立感染症研究所によってO103VTECとO117VTECに同定された。分離された培地ではE.coliO157のソルビット遅(非)分解性およびセフィキシム、亜テルル酸カリウム耐性という性状を利用したE.coliO157の選択分離培地であるCT-SMACにおいて、ソルビット分解性として発育する株が3症例から分離されO26VTEC、O114VTEC、O103VTECであった。特にO103VTECはCT-SMACのみから分離されていた。これらのことから本来E.coliO157の選択分離培地であるCT-SMACにおいて、non-O157VTECがソルビット分解性のコロニーとして発育する株もあり、ソルビット非分解性のコロニーだけではなく、分解性のコロニーも釣菌することによりnon-O157VTECの検出率を上げる
と考えられた。またO26VTECの分離例では、HUSを発症した患児の兄弟から分離された例であり、患児からVTECは分離されなかった。VTECの感染様式は食品等による経口感染であるので、家族が患児と同様の食品を摂取している可能性があり、臨床的にVTECによる感染が強く疑われる場合には、家族からの細菌培養による検索も有用であることが示された。

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研  究
臨床検査室における人事考課
―ISO9001からの実践―
亀田総合病院 臨床検査室
   庄 司 和 行 

Key words
  絶対考課・習熟度・人事考課のフィードバック
はじめに
 当院において人事考課は10年程前から実施されているが、一般職種として構築されたマニュアルを使用している為、専門職あるいは技術職としては、十分
納得して運用している訳ではない。
 そこに、ISO9001を取得する為の準備をしていた時、品質保証という言葉が新たに問われる事態に到った。従来検査結果については、使用される機器・試薬・消耗品等や環境などが精度管理という名のもとに、必要不可欠な確認事項とされていた。しかしその業務に携わる臨床検査技師自身の資質や、技術能力は、問われたとしても、学術的研鑚度だけで、多くは臨床検査技師だから出来て当然といった発想で、業務を担わせているのが現実である。又、長くその検査業務に携わっているから信頼できる検査結果を報告できるという結果にもなる。
 一般論ではあるが、医学が日々変化し発展している以上、医療に携わる臨床検査技師にとっても技術の研鑚が必至となることは言うまでもない。そしてその事を具体的に評価し進歩発展させていく手段を、模索していかなければならない現実がある。
 よって、ISO9001により品質保証できる検査結果を報告する為、技師の資質・技術向上を目的とした人事考課を論理として構築した実践方法を報告することで、病院臨床検査技師として何をなすべきかの、一考になればと願い書面にしてみた。
人事考課の種別
 一般的には人を評価する場合相対考課で判断する事が多い。例えば、あいつは仕事を時々サボったり、反抗的である。不真面目なところがあるから少し低い評価をする。一方あいつは優秀だ。俺の言う事をよく聞くから他の職員より昇給を早くさせる。このような評価の手段ではなく、絶対考課と呼ばれる、基
準を決めて評価する方法で行う。
 1.絶対効果を推進する重要ポイント
  1)考課基準の明確化
  2)フィードバックシステムの整理
  3)公平処遇への活用
  4)考課者訓練の定期的実施
  5)理論武装
人事考課の目的
 人事制度とは、人間関係作りであると言われるが、人事考課となると、自らの研鑚と部下の育成と定義づけられている。具体的には、資質の向上・技術の研鑚の履歴が人事考課である訳だから、我々も臨床検査の部門で仕事をしている以上、医療職としての技術研鑚等は必要不可欠である。したがって三段論法ではあるが[医療人である以上人事考課は必要]となる。
人事考課の必要性
 ISO/TC212については、数年うちに完成されると言われている。そして標準化により検査名・測定法・基準値等臨床検査室の品質保証・結果保証が必須となってくるのは間違いない。この標準化の構築こそが人事考課と教育の必要性を問う結果になる。
 なぜならば、検査室の責任者は、部下一人一人について検査課業の達成能力を把握しているか?どの業務をどこまで任せられるか確認したことがあるか?どんな方法で確認しているか?その方法を文書化しているか?
 これら、問われるのは、技師に対する業務責任の設定と理由の文書化が必要になってくる由縁である。そこで以下の順序に沿って確認する。
人事考課の準備
 1. 職種の決定:職掌(医師・看護・医療技術・事務等)職位(臨床検査技師・薬剤師・栄養士等)職位(病理・生理機能・輸血・化学等)課業(心電図・脳波・肺機能・超音波等)
 2. 課業の洗い出し・等級別習熟度の設定:別表No1
  1) 課業の洗い出し:生理機能検査課業の幾つかを例として表示。同様に臨床化学・血液・微生物検査等に分け課業を表現する
  2) 習熟度の設定:設定した課業について一つずつ難度を決める。技師は二等級から始まるので入職何年で到達するかどうかを目安に設定していく。
   ‡@援:その課業業務を行う事が出来るが、十分とは言えず常に先輩・上司の指導のもとに行う。
   ‡A独:一人でその課業業務は出来るが、最終的結果についての責任性は上司にあり、最終確認は、部署の責任者が行う。
   ‡B完:完璧に責任もってその課業業務は執行出来、結果の信頼性も保証できる。
 3.職能資格制度の設定:1〜3等級を一般職能、4〜6を指導管理職能、7〜9を管理職能とする。
人事考課の実施例
 1.目標の設定:別表No2で心電図検査を例で示す。他に脳波検査・肺機能検査・聴力検査等の課業も同様に行う
  1)部下が半期で黒地に白の表示した部分のところまで到達するべく、部署の上司が決める。
  2)当事者の技師と上司で目標課業の設定を確認しあう。
  3)双方が納得したら到達度の結果で評価することを確認し文書化する。
  4)当事者の技師が別な課業目標を望んだ場合は再度検討する。
  5)誰が誰を評価するか決定する。
 2.評価方法:別表No3
  1)目標達成の為に、その業務を多く実施して学んだ・手順書を熟知した・ミスが無かった・研修会等に積極的に出席した等の事を評価していく。
  2)評価に該当する事項の○を確認し、そのどれを選ぶか、そして最大数の設定以内でいくつ+or―を表示するかを決めて書き入れていく。
  3)半年間の評価合計を算定し報告する。
  4)それを%で表現し査定する。
人事考課のフィードバック
 細目についての掲載はプライバシーと大きく関わってくるので割愛するが、
最も重要な事であり、このやり方しだいで意義そのものが問われる可能性もあ
りえる。基本的には二つの種別参照の資料となる。
  1.昇格や希望部門移動の資料
  2.昇進や賞与の資料
まとめ
 愛・健康・男女・金(富)・地位・夢(ロマン)の中で最も大事と思う事は何ですかと聞くと、人によって様々な答えが返って来る。この事だけでも人間の多様性が見えるし、個性を重視すれば人と人の比較である相対考課はするべきではないと言える。
 管理者の役割とは、企画開発・部下掌握・業務推進である。人を評価すると言う事は、自分を磨く事であり、上司は部下よりも優秀でなければならないと言われている由縁でもある。
 医療の中で臨床検査技師である以上、この人事考課方法が資質と技術で病院検査室を守り育てる具体的な手法の一つと成り得る事を願って止まない。

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資  料
「各グロブリンクラスRF(IgM‐RF,IgG‐RF,IgA‐RF)
及び抗ガラクトース欠損IgG抗体についての考察」
加 藤  恵 一

Key words
  RA, グロブリンクラスRF
 IgG糖鎖異常, 抗ガラクトース欠損IgG抗体
【緒言】
 慢性関節リウマチ(RA)は、自己抗体の産生あるいは自己反応性リンパ球の臓器への浸潤などから、自己免疫疾患の代表的なものといわれている。RAの診断に際しては従来よりアメリカリウマチ協会のRA診断基準1)に准じており、リウマチ因子(RF)の有無は診断基準項目の一つとなっている。

 RFは、Waalerらにより発見され、以後ワーラーローズ反応、RAテスト、RAHA(PA)法、TIA法、LN法と検査法が実施されてきた。本来RFは、変性IgGのFc部分に対する自己抗体であり、各グロブリンクラス(IgM-RF、IgG-RF、IgA-RF、IgE−RF、さらにサブクラスとしてIgG1、G2、G3、G4‐RF、IgA1、A2-RF)に分類される。しかし、各グロブリンクラスRFに対する臨床的意義は種々の報告があり、集約されていない。さらに近年、糖鎖異常IgGのRAへの関与が推察され、抗ガラクトース欠損IgG抗体測定法も確立されてきている。
 本稿においては、各グロブリンクラスRF(IgM-RF、IgG‐RF、IgA-RF)及び抗ガラクトース欠損IgG抗体に関して文献的考察を試みた。

1.グロブリンクラスRF、IgM-RF

 免疫応答では、B細胞とT細胞が中心的な役割を担っている。B細胞抗原特異性はB細胞レセプターにより規定されており、抗体産生過程に際してはV、D、J領域遺伝子の再構成によって自己に対するものも含めて形成される。自己抗原に親和性のあるT細胞は胸腺の分化過程での除去、ネガティブセレクションでトレランスになっている。しかし、これらの制御システムに破綻を生じた時、自己抗体が産生してくる。
 このような自己抗体の一つであるRFは当初、ウサギ抗体感作ヒツジ赤血球を凝集する因子としてRA患者血清中に見出された。従来のRF測定は凝集力の強い、主としてIgM-RFを検出しており、疾患特異性は決して高くはないものの、感受性に優れていることからルーチンワークに取り入れられてきた。また、以前より他の免疫グロブリンクラスのRF(IgG-RF、IgA-RF、IgE-RF)が確認されており、その臨床的意義も異なるものと考えられている。IgM-RFは血清中に現れるRFとしては優位であり、RF高値の患者は疾患活動性が高いことが予想される。Robbins
2)らは、疾患活動性との関連についてIgM・RFの重要性を指摘した。Tarkowskiら3)、Gioud-Paquetら4)もIgM-RFは他のグロブリンクラスRFよりも疾患活動性との相関が良いとそれぞれ報告している。さらに、血管炎などではIgG-RFと相関するとされるが、IgM-RFとも相関するという5)。一方、江崎ら6)は、IgM-RF、IgG-RFとランスバリー活動指数との関係でIgM-RFは活動性指数と逆の変動をすることを示している。D−ペニシラミンのような寛解導入剤(DMARD)投与時による各クラス別RFの動態も異なり、血中RFが低下するとき、IgG-RFよりもIgM-RFの方が低下するとの報告がある7)。また、IgM-RFは単体IgGに対するより、免疫複合体の形成によって重合したIgGの方に強く結合して補体のclassical pathwayを活性化し、炎症と組織破壊を起こす。しかし、免疫複合体を形成したIgGのFc部分にIgM-RFが結合するとIgGがFcレセプターへの結合能を失う8)ことにより、組織障害性は弱まるという拮抗する現象がIgM-RFにあることが考えられている。

2.IgG−RF

 IgG-RFはself-association(自己会合)により免疫複合体を作り易いとされている。それは互いのFc部分の抗原決定基がFab部分によって結合し、dimerとなりこれがさらに、相互結合して比較的大きなサイズの免疫複合体を形成する。
9)この免疫複合体が組織障害性に関与していると考えられている。
 Theofilopoulos
10)は、IgG-RFはIgM-RFと比較して病態との関係や血管炎と相関するとした。RAの関節炎を悪化させるサイトカインIL-6は、血小板産生に関与しており、以前より血小板がRAの活動性と相関するといわれ11)、IgG-RF陽性群では血小板数が有意に上昇し、血管炎との関連が示唆されるという浜田ら12)の成績と一致している。また、ランスバリー指数で示される臨床的活動性は、IgM-RFとは相関せずIgG-RFと良く相関するという報告がある13)。さらに、RA患者関節滑膜リンパ球で産生されるRFはIgG-RFがIgM-RFより圧倒的に多いことなどからRAの疾患活動性をより反映するのは主としてIgG-RFと推察される。神宮ら14)は、治療によりIgG-RFは活動性と臨床像と平行して変動することから治療経過の良いパラメーターになり得るとした。中野ら15)はLN-RF(主にIgM-RF)、IgM-RFに比べてIgG-RFは、混合性組織病(MCTD)を除いたRA以外、他の膠原病における陽性率が低いことからRAに対して特異性が高いことを示した。MCTDに差が認められないのはRAとの合併症があり、RA的要素が存在する可能性があるとした。また、RAのステージ間でのIgG-RF値に有意差は認められないと報告した。栗原ら16)もIgG-RF値は、RAの各ステージ間では同様な成績を示している。このことからもIgG-RF値はその推移が活動性の評価に適していると思われた。さらに、ESRと相関を示すことから、IgG-RF値がESRと同様、時間的に緩やかな炎症をモニタリングするのに有効であると報告している。境田17)は、RAが関節外症状として肺病変を併発することがあり、RFが肺病変形成に関与するのであれば、それは分子量の大きいIgM-RFのcomplexでは流血中で処理され易い為IgG-RFの方であろうとし、IgG-RFの重要性がここでも考察される。

3.IgA−RF
 IgA-RFにおいてもESRとの相関及び臨床的活動性や関節外症状と相関するという報告がある
18)。RAにおける各グロブリンクラス別RFの陽性率において、IgA-RFとIgM-RF間で相関がみられ、IgA-RF陽性群は、陰性群に比し、RAの進行度が高い傾向がある15)。IgA-RFは、特に関節X線像から見た骨erosionと関係する19)とされ、骨の破壊や機能障害の進行性、あるいは手関節の障害との関連を示した報告があり20)、IgA-RFはRAの病態を知る上で有用なものとしている。血中のIgAは分泌型免疫グロブリンであり、IgA-RFはsjogren症候群21)でも高値を示し、唾液中でも認められることが報告されている。
 また、金子ら
22)は、RFのアイソタイプとRAの活動性では、IgM-RF、IgG-RF、IgA-RFいずれもRAの活動性と相関したが、IgG-RF、IgA-RFで強く、IgM-RFで弱いとした。IgM-RFは血清IgMと相関せず、IgG-RF、IgA-RFは血清IgG、IgAと相関が認められたことから、各アイソタイプRFの産生にPolyclonal B-cell activationの関与には違いがあり、その産生機序に差があることが推察された。

4.IgG糖鎖異常・抗ガラクトース欠損
  IgG抗体
 IgG分子は、分子量約50,000のH鎖が2本と23,000のL鎖が2本からなっている。ヒトIgG糖鎖は、図−1のように各H鎖のN末端から297番目のアスパラギン残基(Asn297)に結合した2本鎖複合型糖鎖構造をしており、その主要な糖鎖はガラクトース(GaL)とフコース(Fuc)を含み多様な構造を形成している
23)。この糖鎖を欠損したIgGでは、マクロファージのFcレセプターへの結合能、免疫複合体の流血中からの消失、抗体依存性細胞性障害活性(ADCC)などに影響を及ぼす24)ことが知られている。RA患者のIgG糖鎖のGalが減少している可能性は以前より示唆されていた25)。Parekhら26)は、その糖鎖構造を解析し、RA患者IgGではN−アセチルノイラミン酸(NeuAc)やN−アセチルグルコサミン(G1cNAC)、Fucを含む糖鎖は健常人のIgGと有意な違いは認められないが、Asn297結合型糖鎖1本あたり2分子存在するGa1が2分子とも欠損した[GA1(0)]IgGが有意に増加していると報告した。さらにBondら27)は、マウスの関節炎モデルでRA様の関節炎を自然発生し、RF陽性であるMRL-1pr/1prにおいてもIgGGa1の減少を認めている。従来のRF測定はRA患者の60〜80%に検出されるがRAに特異的ではなく健常人の3〜5%に検出され、加齢もRF保有率に影響する。28),29)これらのことからも糖鎖工学を応用したRA検査法、抗ガラクトース欠損IgG抗体測定法が考案されてきた。本邦でも、諸家により抗ガラクトース欠損IgG抗体測定の有用性が報告されている。新沢ら28)は、抗ガラクトース欠損IgG抗体は既存のRFと強い相関を認め、RA、早期RA(ERA)での陽性率はTIA法やLN法より高く慢性肝疾患では低い陽性率を示し、intactなIgGよりもガラクトース欠損IgGに対しての特異性が高いことが考えられる。海老塚ら30)は、抗ガラクトース欠損IgG抗体測定では、TIA法、LN法によるseronegativeRA患者の陽性率がどちらも50%を超えていた。しかし、特異性においては、少数ながらSLEや他の自己免疫疾患でも陽性例を認めている。また、中野ら31)も、従来法と成績に大きな乖離がないとし、特異性にも有意差が認められないとしている。RAの予後改善には、発症早期より疾患修飾性抗リウマチ薬による治療の開始が重要であり、そのためにもRAの早期診断が望まれている。抗ガラクトース欠損IgG抗体測定と従来のRF測定法をERA例の患者に実施し、田窪ら32)は、LN-RFに比して有意に高率であった。近藤ら33)も、早期例(stage‡T)と進行例(stage‡W)をIgM-RFと比較して両ステージとも陽性率が高く、seronegativeRAにおいてもステージ‡T、‡Wともに陽性となり高い感受性を認めている。この陽性率の高いことは、ガラクトース欠損IgGは、その欠損率が高くなるに従い、RFの結合率も増加する34)こと、ガラクトース欠損IgGに結合するすべての抗ガラクトース欠損IgG抗体を共通糖鎖を介して(各グロブリンクラス抗体を)検出できるためと考えられている。このようなRA患者における血清IgGガラクトース欠損は、IgGを産生するB細胞の特異的ガラクトシルトランスフェラーゼ(GalTase)活性の低下35)あるいは低活性の酵素を持つB細胞クローンの増殖に起因するものとされ、このガラクトース欠損という構造異常が複雑な疾患であるRAの新しい局面を開くことが期待されている。また、胎児造血組織のB細胞でRF重鎖をコードする遺伝子の発現が見られる36)という報告がされており、RFの遺伝子レベルでの非特異的な発生段階における発現が考えられ、このようなRFがRAとしてのpathogenicなRF8)になるために、どのような経過を辿っていくのかも大きな問題である。

5.結語
 各グロブリンクラス(IgM-RF、IgG-RF、IgA-RF)及び抗ガラクトース欠損IgG抗体について文献的考察を行った。
 IgM-RFは、IgGサブクラスのうち最も補体活性能が高いIGg3に対する反応性が弱いこと、IgG-RFが補体と関連性が強く、CRPやESRと相関すること、非RA群では陽性率が低く、悪性関節リウマチでは逆に高いこと、血管炎との関連が示唆されていること、さらにランスバリー指数との一致率が高いことなどの報告からIgG-RFはIgM-RF、IgA-RFよりも病態との関連性が強いと思われた。IgG-RF測定はRAの診断そのものを目的とするのではなく重症度や関節外症状についての情報を得るために有用と考えられる。
 一方、抗ガラクトース欠損IgG抗体測定は、患者血清中のIgGのGal含有量と血清IgM-RF及びin vitroでのIgM-RFとの反応性には相関関係がないことやAsn結合型糖鎖を完全に除去してもRFとの反応性に差がみられない
37)などから、Ga1(0)IgGがRFの実際の抗原とするには考慮の余地35)があるものの、RAにおいて高い陽性率及び疾患活動性と相関が良いことや従来法でseronegativeRA患者に対しての陽性率を上昇させることが可能なこと、あるいは早期診断での有用マーカーが求められている観点からも以前からの方法に加え、今後、自動化への対応38)とも相まってルーチンワークへの導入が進むものと思われる。また、RAの治療法においても滑膜細胞の腫瘍様の異常増殖を阻止するための細胞周期調節分子を使用した治療法、TNF- 、IL-6などの炎症性サイトカインに対する抗TNF- 抗体、IL-6レセプターに対するモノクローナル抗体を利用したものなど「分子治療39)」が進められており、検査診断における免疫グロブリンアイソタイプRFの分析、糖鎖工学技術を駆使しての病態解析などRA解明のための細分化された多方面からのアプローチが展開されている。

文 献
1)Arnett,F.C.,et al:Arthritis Rheum.,31:315〜323,1988
2)Robbins,D.L.,et al:J.Rheumatol.,13:259〜262,1986
3)Tarkowski,A.,et al:J.Clin.Immunol.,12:129〜135,1983
4)Gioud-Paquet,M.,et al:Ann.Rheum.Dis.,46:65〜71,1987
5)Jakle,C.,et al:J.Rheumatol.,12:227〜232,1985
6)江崎一子、池:医学と薬学、24:1501〜1505,1990
7)Wernick,R.,et al:Arthritis Rheum.,26:593〜598,1983
8)伊藤美津子、他:病理と臨床、14:710〜719,1996
9)PoPe,R.M.,et al:Arthritis Rheum.,18:97〜106,1975
10)Theofilopoulos,A,N,,et al:Arthritis Rheum.,17:272〜284,1974
11)Hunchinson,R.M.,et al:Ann.Rheum.Dis.,35:138〜142,1976
12)浜田欣哉、他:臨床リウマチ、7:15〜21,1995
13)Lessard,J.,et al:J.Rheumatol.,10:411〜417,1983
14)神宮政男、他:リウマチ科、2:135〜138,1989
15)中野正明、他:リウマチ科、8:200〜208,1992
16)栗原夕子、他:リウマチ科、22:499〜510,1999
17)境田博之、:リウマチ、35:671〜677,1995
18)Westedt,M.L.,et al:Rheumatol.Int.,5:209〜214,1985
19)Arnason,J.A.,et al:Ann.Rhem.Dis.,46:380〜384,1987
20)Withrington,R.,et al:Br.Med.J.,291:1388,1985
21)Dunne,J.V.,et al:Ann.Rheum.Dis.,38:161〜165,1979
22)金子元英、他:リウマチ、39:339,1999
23)Mizuochi,T.,et al:J.Immunol.,129:2016〜2020,1982
24)Nose,M.,etal:Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,80:6632〜6636,1983
25)Hymes,A.J.,et al:J.Biol.Chem.,254:3148〜3151,1979
26)Parekh,R.B.,et al:Nature,316:452-457,1985
27)Bond,A.,et al:J.Immunol.,20:2229〜2238,1990
28)新沢穣太郎、他:医学と薬学、36:1083〜1089,1996
29)加藤恵一、:都臨技会誌、13:1〜4,1985
30)海老沢岳彦、他:臨床と研究、74:213〜218,1997
31)中野正明、他:J.Chubu.Rheum.Assoc.,27:61-62,1996
32)田窪伸男、他:リウマチ科、17:228〜234,1997
33) 近藤正一、他:臨床と研究、74:454〜458,1997
34)Soltys,A.J.,et al:J.Immunol.,40:135〜143,1994
35)土屋尚之、*蛋白質・核酸・酵素、37:1935〜1939,1992
36)Carson,D.A.,et al:J.Clin.Invest.,87:379〜383,1991
37)Newkrirk,M.M.,et al:Arthritis Rheum.,33:800〜809,1990
38)古田伸行、他:医学検査、49:505,2000
39)住田孝之:Molecular Medicine,38:368〜368,2001

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施設紹介


千葉県済生会習志野病院


 世界の人々驚愕した米国同時多発テロ事件、及び台風15号が千葉県を通過した1週間後の9月18日に千葉県済生会習志野病院を訪問しました。千臨技の皆さんの中には済生会習志野病院と云うとピンとこない人がいるかもしれませんが、旧国立習志野病院のことです。今年の4月より国営から民営化に移行した千葉県でも最も早い施設です。その施設について紹介します。

済生会習志野病院は、今から3年前より病院側と交渉し続け成立した病院です。また、母体となった済生会船橋済生病院は今年の3月をもって閉院しました。運営方式は、初年度は患者さんの混乱や医療ミスを防ぐことを第一と考え国立習志野病院の運営方式でいき、来年4月より済生会のやり方で運営するそうです。民営化となり独立採算制を取ることは云うまでもないのですが、済生会の目標として患者さんのわかりやすい所の壁に済生会病院として次のような目標を掲げていました。
○患者さんの権利を尊重し、患者さんと一緒に考える良質な医療を提供します
○すべての診療情報を患者さんにお伝えします
○信頼される医療を行うために研修・研鑽をいたします
また、病院として患者さんへの情報公開を積極的にすすめ、周囲の病院への紹介率を高め、セカンドオピニオンのことも考え、さらに、質の高い医療を提供する考えです。
病院の規模は、病床数321床であり(国立の時には450床)開院当初は医師・看護婦などの医療スタッフ200名から始め、現在300名程の医療スタッフを擁しています。また、一日の外来患者数は500名、入院患者数230名(ベッドの稼働率は6―7割ですが医療事故を特に防ぐために現段階ではこのような対処をとっています)です。
検査部の技師の人数は、国立より3名・船橋済生病院から5名・新人3名の計11人で各部門の検査をこなしています。各部門の担当は、血液凝固検査1人・生化学検査1人・輸血血清検査1人・病理細胞診検査2人・細菌検査1人・生理検査2人・採血と尿一般3人がそれぞれ担当しています。(国立の時の検査技師数は15人)
病院の1階には採血室・尿一般(ワンフロア)があり、国立病院の時と同じように、臨床検査技師が全面的に患者さんの採血を行なっています。また、すぐ傍には生理検査室もあり呼吸機能・心電図・脳波などの検査を行っています。


また、最近になって、アンギオ(心臓血管造影)もドクターと一緒にチームを組み、チームの一員としてやりはじめました。
検体検査は2階で、輸血・血清でワンフロア、輸血の血液製剤も一元管理をしていて各血液製剤2単位づつ常備してあり、効率よく使用しています。(国立の時は薬剤部が血液製剤を管理していました。)隣の部屋は生化学・血液検査室で、検体数として1日の平均が入院で50前後、外来で100前後を検査しています。また、国立の時には生化学検査室と血液検査室の間には壁があり仕切られていたのですが、今はその壁がなくなりワンフロアになりレイアウトを変えたことにより動きやすくなったと言っていました。それから、各部屋・部署の検査機器は、国立の時に使用していた機器をそのまま使用しています。
 廊下を挟んで病理検査室があり、病理標本や細胞診の標本など多くの検体をこなしていました。
 病理検査室の隣に細菌検査室があり、ベクトンディッキンソンのセプターシステムを使用し細菌の同定をしています。また、薬剤を服用している人の細菌の同定には、かなり苦慮するときもありますと云っていました。
 ルーチン検査の中には、依頼が余りない項目まで今も検査しているので、夜7時まで、毎日の様に仕事をしています。(国立の時の依頼項目で検査しているので)検査技師の数が以前より減少していたり、コストのことを再検討し、依頼項目が少ない項目は、外部委託をしようと考えている様子です。(特殊検査などはもともと外部委託をしています)勤務体制は、月曜日から土曜日までで、日曜日などの休日は日直体制をとり、夜間はオンコール制をとっています。  検査部の病院内活動は、感染症・輸血・臨床検査運営委員会など委員会活動が全部で26あり、積極的に委員会へ出席し、若い人達の意見を病院側に取り入れてもらっているようです。
 その他にもクリニカルパスへの参加や、感染症についての知識や情報、また扱い方など幅広く看護婦さんに教えています。(リンクナース制度)また、3年後には400床程度の病院を新築する計画があり、検査部としては、国立病院の時より受け継いだシステムに患者データを蓄積し、新たなシステムのデータべースを作り、3年後の新病院へ向けて準備をしています。
  最後に、まだ済生会習志野病院として月日は余り経っていないにも拘わらずお話を聞かせて下さいました吉崎検査科長、また、快く見学させてくださいましたスタッフの皆様に、心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。


千臨技編集委員
柿沼  豊  (千葉市立海浜病院)
古賀 智彦  (千葉社会保険病院)
     

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