千臨技会誌 2005 No.2 通巻94

シリーズ 細胞レベルの病理学
30.膜性増殖性糸球体腎炎
(Membranoproliferative Glomerulonephiritis)
千葉社会保険病院           岸澤  充 
千葉大学大学院医学研究院腫瘍病理学  梅宮 敏文 
千葉県こども病院           中山  茂 
研  究 バンコマイシンの薬物治療モニタリングが    有用であった1症例 千葉県循環器病センター 検査部 検査科 細菌検査室
斉藤 佳子  佐藤 正一  仁科  功
研  究 感染症診療支援情報・院内感染対策情報システムによる微生物検査業務の効率化 独立行政法人国立病院機構 下志津病院
臨床検査科 後 藤 智 彦 
研  究 当院における過去6年間のインフルエンザウイルス迅速キットによる検査成績と動向 独立行政法人国立病院機構 下志津病院     
臨床検査科 後 藤 智 彦
資  料 臨床化学検査研究班研修会「よろず相談談話会」開始にあたって 千葉県臨床衛生検査技師会臨床化学検査研究班班長 
千葉大学医学部附属病院 検査部 吉 田 俊 彦 
資  料 研修会に参加して
−臨床化学研究班・よろず相談談話会―
浦安市川市民病院 検査科
伊 藤 博 己
施設紹介 財団法人 ちば県民保健予防財団(検査課)  



シリーズ
細胞レベルの病理学
30.膜性増殖性糸球体腎炎(Membranoproliferative Glomerulonephiritis)
千葉社会保険病院                  岸澤  充 
千葉大学大学院医学研究院腫瘍病理学  梅宮 敏文 
千葉県こども病院                  中山  茂 

 膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は、慢性進行性の疾患で、年長小児や若年者に多くみられ、成人例は少ない。一般に蛋白尿、血尿、ネフローゼ症候群を伴い発病するが、小児では学校検尿で発見されたり、急性腎炎症状、肉眼的血尿ではじまる例もある。MPGNは低補体血症を示すことが多く、臨床的には憎悪と改善が繰り返され特にネフローゼ症候群と補体価が変動し、5〜10年で大部分が慢性腎不全に移行する。組織学的には、基底膜のびまん性肥厚、メサンギウム細胞の増殖、基質の増加により糸球体は腫大する。末梢係蹄壁は増殖したメサンギウム細胞が、基底膜と内皮細胞の間に入り込みPAM染色で二重(double track)にみえる。
 MPGNには3つの型があり、沈着物の状況、量、時期による変遷などの確認に電顕所見が有効である。T型は、基底膜と内皮細胞の間にメサンギウム細胞と基質が増殖侵入(mesangial interposition)し、内皮下腔に電子密度の高い沈着物がみられる。U型は、肥厚した基底膜内に著しく電子密度の高い沈着物が長くリボン状に沈着しDense deposit diseaseとよばれる。V型では沈着物は上皮下および基底膜内にみられ膜性腎症に似た所見を示す。
図1上図:メサンギウムの細胞増殖、基底膜の二層化(矢印)を認める(PAM染色)。下図:沈着物により二層化した基底膜を示す。(×8,500)

図2:内皮下の沈着物(矢印)とメサンギウム基質の侵入(*)を示す。血管腔(CL)、内皮細胞(ED)、メサンギウム細胞(ME) (×6,000)

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研  究
バンコマイシンの薬物治療モニタリングが有用であった1症例
千葉県循環器病センター 検査部 検査科 細菌検査室
斉藤 佳子  佐藤 正一  仁科  功

Kye words: 
薬物治療モニタリング(TDM)、バンコマイシン(VCM)、
クレアチニンクリアランス、MRSA、
Pharmacokinetics/Pharmacodynamics (PK/PD)
【はじめに】
 感染性縦隔炎は、心臓血管領域では重篤な開心術後合併症の一つである。主な病原菌としては、黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌があげられる。外科的治療には、早期再手術による病変の除去と持続洗浄があるが、最近では大網充填術が試みられ、治療成績は向上している。しかしメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの耐性菌による縦隔炎は依然として難治性である。
 MRSA感染症治療薬には、アミノ配糖体のアルベカシン(ABK)やグリコペプタイド系のバンコマイシン(VCM)、テイコプラニン(TEIC)などが使用される。しかし、これらの抗菌薬は薬の吸収・分布・代謝・排泄の個人差が大きいうえ、治療域濃度と副作用発現域濃度が近接していることから投与方法に注意を要する薬剤である。
 今回、MRSA縦隔炎症例に対してVCMを投与し、薬物治療モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring;TDM)を行うことで完治できた症例を経験したので報告する。
T 症例
1.患 者:28歳、女性、身長162.2cm、体重53.8kg
2.既往歴:甲状腺機能亢進症
3.現病歴:平成10年1月頃より労作時呼吸困難出現。千葉大学医学部附属病院にて僧帽弁閉鎖不全症を指摘された。平成15年3月、同病院にて心臓カテーテル検査を施行、手術を勧められ、当センターを受診。手術目的で平成16年2月9日入院となる。
4.臨床経過:平成16年2月16日僧房弁形成術施行。術後、セファゾリン(CEZ)1.0g 2回/日を投与されていたが、2月21日より38度の発熱とともに術創部である胸部正中創上部に発赤を認めた。血液生化学検査結果は白血球数18000/μl、CRP 16.1mg/dlと炎症マーカーが著明に上昇していたことから、2月22日よりMRSA菌血症を疑いVCM 0.5g 2回/日の投与を開始した。2月24日に提出された正中創浸出液および血液培養からMRSAが検出された。2月25日CTにて胸骨裏におよぶ胸部正中創皮下膿瘍を認めた。同日、VCMシミュレーションの依頼があり、その結果から治療域に達していないと推定され、VCM投与量を増量して1.0g 2回/日とした。翌日血中濃度を測定したところ谷値(トラフ値)6.1μg/ml(目標治療トラフ値5〜15μg/ml)、ピーク値25.7μg/ml(目標治療ピーク値25〜40μg/ml)で治療域下限濃度であった。3月3日には感染組織郭清術および持続洗浄を施行。VCMによる治療を行っていたにもかかわらず術中組織培養からMRSAを検出した。また患者は年齢も若く、血清クレアチニン(Scr)値が0.44mg/dlと腎機能が良好であることから、VCMクリアランス(VCM-Cr)能が高いことが予測され、投与量をさらに増量し1.0g 3回/日に変更した。3月5日に大網充填術を施行。術中組織培養は陰性化した。3月9日心エコー検査を実施し、細菌性心内膜炎所見のないことを確認した。術後経過は良好で、3月23日にはVCM投与を中止。その後CRPの陰性化を確認し、3月31日軽快退院となった。(図1)
図1.症例のVCM濃度推移シミュレーション結果
U 方法
1.VCM濃度測定:VCM血中濃度は蛍光偏光免疫測定法(TDX;アボット・ジャパン社)を用いた。
2.TDM解析:TDM解析にはVCMのTDM専用ソフトである塩野義製薬株式会社製「VCM-TDM on EXCEL」を使用した。
3.薬剤感受性検査:全自動同定感受性検査装置VITEK・TWO(ビオメリュー社)を使用し、グラム陽性球菌用のパネルAST-P525にて測定した。感受性結果は表1に示すとおりである。VCMのMICは1.0μg/ml以下であった。
表1.薬剤感受性成績
V 考察
 TDMとは血中濃度を効果判定の指標にし、患者個々に対する最適な抗菌薬の選択、用法、用量の設定、副作用に関するモニタリングを行うことである。臨床の場ではMRSA感染症の治療薬として、VCM、TEIC、ABKの3剤が主に用いられている。これらの抗菌薬は臨床薬物動態が明らかにされ、投与設計あるいは効果・副作用の評価を行う上でTDMが有用とされている1)
 VCMの薬物動態と治療効果の関係は、薬物に接触する時間の長さと濃度によって効果が比例関係を示す時間依存型薬物で、トラフ値の血中濃度を一定以上に保つ必要がある。VCMの治療域血中濃度は、ピーク値が25〜40μg/ml、トラフ値が5〜15μg/mlとされており、治療域が狭い。また、副作用はトラフ値が30μg/ml以上継続すると腎障害が、ピーク値が60〜80μg/ml以上を継続すると聴覚障害といった重篤な副作用をおこす。さらに、副作用発現域は治療域濃度と近接しているためVCM血中濃度モニタリングが有用であると思われる。
 副作用である腎機能障害のモニタリングには尿細管上皮が障害を受けてから3日〜4日の早期に尿中N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)の異常値が観察されるため適していると考えられる。クレアチニンクリアランス(Ccr)は腎障害が起こってから1週間前後たって低下し、血清Creの上昇が認められるのには10日後以降になる
2)
 一方、VCMの血中濃度に大きく影響する因子として、性別、年齢、体重とCcrがある。しかし、本邦の多くの病院では、抗菌薬投与に血中濃度影響因子を考慮していないのが現状である。VCMの添付文書上での投与量は「通常成人には1日2gを2〜4回に分割」と記載されているが、長谷川らは、添付文書にもとづいた方法での有効率はわずか31%であったと報告している
3)4)5)。当センターにおいてもシミュレーションで有効治療濃度に達していた症例は21%(7例/34例)であり、多くの症例で有効治療域に達しない状態でVCM投与が行われていたと考えられる。
 また、VCMは尿中排泄率が80〜90%と高い腎排泄型薬剤のため、Ccrは重要な因子となる。特にVCM-CrはCcrと相関することが知られており、老人や透析患者、腎不全などの腎機能の低下している患者では、VCMが体内に蓄積されてしまうため過剰投与になる可能性がある。しかし、本症例ではScr 0.44mg/dlと腎機能が良好であり、VCM-Cr能も高いと考えられることからVCMの血中濃度が目標域まで上がらなかったものと思われる。これらのことから添付文書に添った用法・用量では個々の症例に十分な対応が出来ないため、VCMを適正に使用するためにはTDMを実施して個々の腎機能を考慮した投与量を調節する必要があると考えられる。さらに、患者によっては、VCM-Crが治療過程で大きく変動する場合がある。このような場合には、Scrの動きを基にして頻回のTDMを実施して、有効治療域を維持するよう努めなければならない。
 一方、VCM血中濃度が治療域であっても菌の消失が見られないこともある。このような臨床の現場との乖離を少なくするため、当センターではこれまでのTDM解析に加えMRSAの最小発育阻止濃度(MIC)とVCMの臓器移行性を組み合わせた薬物動態(Pharmacokinetics;PK)と薬力学(Pharmacodynamics;PD)という手法を取り入れている。PK/PD理論には点滴終了時のピーク血中濃度とMICの比(Cmax/MIC)、トラフ血中濃度がMIC以上を保ち続ける割合(%T>MIC)および抗菌薬の24時間暴露量すなわち血中濃度-時間曲線下面積(Area Under the blood concentration Curve; AUC
24)とMICの比であるAUC24/MICがあり、VCMに関しては、AUC24/MICが臨床効果と相関することが明らかとなってきた(図2)6)7)
 Moiseらによると重症感染症ではAUC24/MIC ratioを125以上、重症肺炎では345以上に保つことが必要であると報告している8)。今回我々の経験した感染性縦隔炎の目標治療濃度は示されていないが、重症肺炎時より高濃度にすることでMRSAの消失につながった。
 当センターのMRSAのVCMに対するMICは0.5〜2.0μg/mlであり、これをAUC
24/MICの面から見てみると、MICが高くなるほど能書に基づいて投与した場合、これまで治療域としていたトラフ値やピーク値では効果が認められない可能性がある。これまでの投与設計では、PK/PD理論を用いていないため、菌個別のMICや抗菌薬の臓器移行性は考慮されていない。今後、抗菌薬の治療成績を向上させ、副作用発現を回避するための方策として、臓器移行性やMICを加味した抗菌薬の有効な用法が臨床側に提供できれば、TDMの臨床的意義がさらに高まるものと思われる9)
 なお、臨床効果の面では、奥田らはTDMを実施することによりCRPは5割〜9割、白血球数は2割〜5割、細菌学的には4割〜6割、効果が上がったと報告している
10)。このことは、入院期間の短縮や薬剤コストの削減にもつながり、今後導入が予定されるDPCに対し有効であることが予測される。
W まとめ
 VCMの体内動態は腎機能により影響をうけることから、VCMを投与する場合、Scrの変動にあわせた血中濃度シミュレーションを実施し、投与量や投与間隔の修正による用量調整が必要である。TDMは患者個々に適した最小限の投与量で、かつ副作用を軽減し、抗菌薬の治療効果の向上に有用で不可欠な手段である。また、不適切な抗菌薬の長期投与による耐性菌の発生防止にもつながり、抗MRSA薬の特定薬剤治療管理料および入院期間の短縮や薬剤コストの削減につながるなど経済面でも有用な方法であり、今後導入が予定されるDPCに対し有効であることが予測されるため積極的にTDM業務を行う必要があると考える。現在、臨床検査室ではアミノ配糖体系やグリコペプタイド系抗菌薬の血中濃度測定は比較的容易にできるようになっている。しかし単に測定するだけに終わっていることが多いと思われる。TDM用のソフトを用いれば、血中濃度測定をもとにコンピュータによる解析計算を行い、薬物動態の概念をわかりやすく視覚的に捉えられるように模式図化して報告することが可能である。さらに、PK/PD理論を用いて抗菌薬の臓器移行性や起因菌のMICを加味した有効な用法が臨床側に提供できれば、TDMの臨床的意義がさらに高まるものと思われる。
引用文献
1)篠崎公一:治療域、中毒域および主な副作用.だれでもできるTDMの実践(篠崎公一 監修),2-5,テクノミック,東京,2003
2)河合忠,屋形稔:尿中N-アセチルグルコサミニダーゼ.異常値の出るメカニズム,269-272,医学書院,東京,2001
3)勝山義彦,大森栄:血中薬物濃度測定.検査と技術 31(12):1279-1283,2003
4)長谷川敦,渡辺多真紀,木村真春:当院における塩酸バンコマイシンの現状と評価.JJSHP 35:955-958,1999
5)高嶋孝次郎,佐野正毅,水野賀夫:臨床薬剤師業務の客観的評価[T]−MRSA肺炎患者におけるTDM(ABK・VCM)の有用性の検討.JJSHP 36:311-315,1999
6)小松方,相原雅典:PK/PD理論に基づく新しいブレークポイントの提案(DRG/PPS時代に求められる感受性成績の出し方).より良い感染症治療をめざして(管野治重,相原雅典 監修),27-40,ライフ・サイエンス,東京,2004
7)小松方,中村彰宏:Pharmacokinetics/ Pharmacodynamics parameter算出プログラムの開発とMIC値を活用した新しい感染症治療ガイドライン作成の試み.THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 56(6):697-704,2003
8)Moise P A,. et al.:Area under the inhibitory curve and pneumonia scoring system for predicting outcomes of vancomycin therapy for respiratory infections by Staphylococcus aureus. Am J Health-Syst pharm 57(Suppl 2):S4-S9,2000
9)森田邦彦,谷川原祐介:TDMに基づく抗MRSA薬とVRE薬の適正使用とそのPK/PD上のエビデンス.化学療法の領域20(8):1158-1163,2004
10)奥田敏勝ほか:当院のMRSA感染患者における薬物血中濃度モニタリングの現状とその有用性の評価.倉敷中央病院年報65:151-155,2002

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研  究
感染症診療支援情報・院内感染対策情報システムによる微生物検査業務の効率化
独立行政法人国立病院機構 下志津病院 
臨床検査科 後 藤 智 彦 

【はじめに】
 微生物検査の業務には、日常検査以外に院内感染制御対策がある。
 ひとたび院内感染が発生すると、生命の危険、病院の金銭的損失、病院の評価低下など、過大な損失が発生する。
 今回我々は、感染診療支援情報・院内感染対策情報のシステム化により院内感染の発生をリアルタイムに把握し、臨床側と素早い連携をして検査室側の持つ情報を正確、的確に提供することができるシステムを運用することにより、業務の効率化をはかることができたので、報告する。
目的と導入効果
・オーダーリングシステムの導入により、入力漏れや、報告漏れ、また医事請求漏れ等の人為的ミスをなくすと共に、微生物検査の効率化を目指した。
・感染症データを一元管理することにより、検査サイドでの異常データや耐性菌報告、疫学集計、統計処理が多次元的に自動検出でき、病院感染対策に役立つ資料提供を実現した。
・菌情報や薬剤情報、感染対策マニュアルなど感染症関連の情報を、Webサーバー機能により院内ネットワークを利用して医療スタッフに知らせることが可能となった。
・画像による情報の提供として、顕微鏡画像を記録し、貪食像など起因菌との関連を推定する。
・入院後、新規に菌が検出された患者名と菌名を病棟別に表示し、院内感染に関連する菌としてのMRSA、緑膿菌、その他さまざまな菌についても報告。
・参照画面の菌名や薬剤名を選択することで、菌情報、薬剤情報を表示できるようになった。検査で報告された菌の特徴、病原的意義、治療に関する情報を参照して治療にあたることで、情報不足による、医療過誤を防ぐことができると思われる。
システム構成
 Webサーバーに各端末が接続されています。端末には専用のソフトをインストールすることなく、またソフトのバージョンアップ等もサーバーだけ管理すればよいように院内のイントラネットにより一元管理をめざしました。
運 用
 セキュリテイは、個人ごとにIDとパスワードにてログインし、使用しますが職種や、業務により、与えられた権限により、利用できる情報に制限があります。
・主治医にTEL連絡の他に、依頼元に微生物検査仮報告書(FAX)を出力している。
・特に血液培養陽性結果、髄液顕微鏡結果と髄液4抗原検査結果、抗酸菌塗抹結果、遺伝子検査(結核菌群PCR)に使用している。
・迅速検査(抗原検査)はTEL報告での+、−の結果の取り違い防止に有用である
。 提出病棟ごとの、総検体数と検出率が把握できます。
文字情報に加えて画像による情報の提供が可能になりました。
検体画像:便や喀痰など、外観・性状が重要な要素をもつ材料の画像を記録することにより、検査の判定・確認に役立った。
顕微鏡画像:顕微鏡検査の結果を画像として記録することにより、貪食像など起因菌との関連を推定することに役立ちます。めずらしい菌の画像を教育用に使用することも可能。
培地画像:培養結果を画像として記録することにより、コロニーの特徴を保存できる。
月別・院内推定菌推移をグラフに表したものです。
S.aureus(MRSA)の検体数に対する、検出数と比率について表したグラフです。
まとめ
バーコードラベルの運用
 培地バーコードを必要枚数、印字できますので、シャーレに手書きする必要がなく、培養結果入力もバーコードで結果画面を呼び出せ、省力化と同時に入力検体ミスも防ぐことが可能になった。
FAX・オンラインによる報告
 報告の迅速性と確実性を要する検査への対応。
顕鏡結果と分離菌チェック機能
 材料別検出菌チェック機能で、材料ごとにあまり検出されることのない菌が検出された場合にアラートを表示でき、さまざまなデータチェックにより、ミスを無くし、検査担当者間の個人差をなくすことができるようになった。
薬剤感受性結果は、NCCLS判定値と合わせて、化学療法学会判定値を報告できる。
 医師は、細菌学的判定と臨床的判定を総合的に判断して、有効な治療薬を選択することが可能になる。

 今回のシステム導入により、ペーパーレス化と検査業務の効率化が図られ、リアルタイムに情報の発信が可能となりました。今まで情報を提供する時間と労力をさいてきたが、臨床側に感染症治療に生きたデータを提供できるようになり、院内の検査室が持つ特性を発揮し医師の診療行為を支援し、より効果的な治療が行える様に今後も活用していきたい。

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研  究
当院における過去6年間のインフルエンザウイルス迅速キットによる検査成績と動向
独立行政法人国立病院機構 下志津病院
臨床検査科 後 藤 智 彦

【はじめに】
 当院では、過去6年間インフルエンザウイルス迅速キットを同一メーカーのキットを使用して、シーズン中キットの安定供給を受け継続的に6年間測定することが出来ました。今回、全集計データーより検査成績と動向についてまとめてみました。
対象と方法
 平成11年度から平成16年度に、当検査室に提出された6097件を対象としました。検査材料は、鼻腔ぬぐい液を用い、インフルエンザ迅速診断キットはキャピリアFulA,B(ベクトンデッキンソン)を用いました。依頼時にワクチン接種者と非接種者を記載してもらい比較を行いました。
結 果
 年度別の月間の依頼件数状況を集計して見ました。年度によって、依頼件数のピークは変動しており、11年度は、1月にピークがありますが、ほぼ横這い。12年度、13年度は、1月から急激に増加していますが、12年度は3月、13年度は2月がピークとなっています。14年度、15年度は12月から増加し、1月にピークを迎えており、16年度は年末から1月にかけて依頼が少なくなったのですが、年明け2月から3月のはじめに急激な上昇がみられました。対象とした過去6年間では、平成16年度の異常発生をのぞき、全体としてピークが早まっている印象を受けます。これには気候の変化等の影響が考えられます。
平成11年度 平成12年度 平成13年度 平成14年度 平成15年度 平成16年度
11月 0 8 4 30 6 41
12月 32 39 11 122 91 224
1月 100 26 114 626 481 192
2月 70 139 551 552 336 815
3月 8 253 363 276 54 485
4月 0 11 30 17 4 53
5月 0 0 0 0 0 0
 年度別の検査件数及び陽性件数は、毎年増加傾向になっており、特に、14年度、16年度は突出して増加しています。これはメディアでSARSや、鳥インフルエンザの驚異が取り上げられたり、検査キットの普及が影響している可能性も考えられます。
 陽性件数は、検査件数が増加するに伴って増加しており、検査件数に対し陽性率は31%〜44%の間を推移しています。(11年40% 12年31% 13年44%14年36% 15年42% 16年37%)
 15年度は、14年度に比較して検査件数は減少し、B+の患者が少なくなっています。16年度は、全体的にB陽性が多かったが、A陽性が2〜3月に 集中して多かったです。
平成11年度 平成12年度 平成13年度 平成14年度 平成15年度 平成16年度
件   数 210 476 1074 1609 972 1824
陽性合計 83 148 474 578 384 705
A陽性 83 148 411 379 362 214
B陽性 0 0 63 199 22 491
 A陽性者を再度測定した結果集計すると、16年度は、A型・B型の流行が混在しており集計からはずし、H13〜15年度でみると13年度は、11名の患者が陰性化し、5名の患者は、陽性。14年度は、20名の患者が陰性化し、7名の患者は陽性。15年度は9名の患者が陰性化し、2名の患者は陽性となりました。16年度は、A型・B型の流行が混在しており集計からはずしてみました。
  
 陰性者を再度測定した結果を表にしたものです。
 N数の多いH12〜H15年度で見ると。12年度は、5名の患者が陽性化し、7名の患者は陰性。13年度は、21名の患者が陽性化し、29名の患者は陰性。14年度は、37名の患者が陽性化し、87名の患者は陰性。15年度は8名の患者が陽性化し、36名の患者は陰性となりました。
 このように臨床症状と結果の不一致が生じる原因としては、ワクチン接種の有無、発症から検査までの時間、検体採取手技の影響などが考えられます。
 H14.15年度にワクチン接種を受けた患者と非接種の患者を比較したものです。
 ワクチンの接種を受けた患者の陽性率は、非接種の患者に比べ、1割程低くなっています。
ワクチン接種状況
 集計年月:2004/09 〜 2005/05
件数 ワクチン有り件数(0件中) ワクチン無し件数(10件中)
年月 不明 陰性
(%)
A陽性
(%)
B陽性
(%)
A・B
陽性
(%)
陰性
(%)
A陽性
(%)
B陽性
(%)
A・B
陽性
(%)
10 0 10 1 0 0 0 0 9 1 0 0
11 1 34 6 1 0 0 0 32 2 0 0
12 7 213 4 7 0 0 0 152 60 1 0
01 13 178 4 10 0 3 0 109 15 54 0
02 58 750 7 31 6 21 0 399 42 309 0
03 58 435 0 35 5 10 0 287 67 81 0
04 8 41 4 5 2 1 0 24 10 7 0
 集計年月:2004/09 〜 2005/05
A型 B型 陰性
年月 件数 ワクチン
接種
A陽性
(%)
ワクチン
(%)
B陽性
(%)
ワクチン
(%)
陰性
(%)
ワクチン
(%)
2004/10 11 0 1(9.1) 0 0 0 10 0
2004/11 41 1 2 0 0 0 39 1
2004/12 224 7 61 0 2 0 161 7
2005/01 195 13 15 0 57 3 123 10
2005/02 815 58 49 6 333 21 433 31
2005/03 485 50 72 5 91 10 0 0
2005/04 53 8 14 2 8 1 0 0
まとめ
 今回の6年間の調査の結果、臨床症状と検査結果に相違のあるものが見られることが解った。発症から検査までの時間、抗原の量、ワクチン接種の有無、検査手技等の影響も考え、他の検査結果や臨床症状も考慮して、最終的に診断する必要性があると思われます。
また、今回の調査では、ワクチン接種者の陽性率が非接種者に比べて1割程度低い結果となりました。今後もさらに検討を続けていきたいと思います。

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資  料
臨床化学検査研究班研修会「よろず相談談話会」開始にあたって
千葉県臨床衛生検査技師会臨床化学検査研究班班長 
千葉大学医学部附属病院 検査部 吉 田 俊 彦 

 皆さんは検査業務を行う中で、異常値出現や機器の故障など様々な出来事に対して、相談したり、教えを請う相手がいらっしゃいますか?
 私は幸いにも自分では理解できない種々の出来事に対して的確な解説をいただける諸先輩、同僚に恵まれました。人数がある程度いて専門的に業務をこなしている方がいる施設では、私と同じような状況であったと思います。しかしながら簡単には相談できないような環境で仕事をしている方が大勢いらっしゃることも感じていました。このような環境の方々はどのようにして様々な出来事を解決していらっしゃったのでしょうか。そんなことを考えているとき、研究班として何か役立つことができないだろうかと思いました。
 今までの研修会は最新の医療やトピックスを取り上げることが多く、また講演を聴く事が主で、会員相互の意見や話を聞く機会が少なかったわけです。そこで今回、「スクール形式の講演会ではなく、丸テーブルあるいはロの字型配置による対話形式で意見交換を行う。」という話し合いの場として「よろず相談談話会」を企画してみました。また「特にテーマを決めずフリートーキングできる場」にしたいと思いましたが、実際にはなかなか話題が出ませんので、予め研究班として準備した内容について話し合いを行いました。
 実際には第1回を平成16年9月4日に実施しました。この時は「EDTA血混入が疑われた事例」を紹介し、異常データの発生期序や解決策を話し合っているうちに、異常値が出た時の再検の仕方や原因究明の方法論などに話が発展していきました。また別な話題として「フィブリン除去用の竹串による検査値への影響」の話をしながら、各施設で使用しているフィブリン除去用の器具を紹介し、情報が交換されました。このようにある話題について各参加者が実例を挙げることにより、他者がどのように行っているのか、あるいは最良の解決策が何なのかといった情報交換ができ、非常に有用性が高い話し合いができたと感じました。
 第2回は12月4日に実施しました。この時は前回出席した方、あるいはこの様な談話会が開催されている事を情報として得た方から事前に質問が寄せられていました。ここではそれを発表していただき、当日参加者の方々から種々のご意見を述べていただきました。問題そのものに明確な解答が得られたわけではありませんが、参加者の皆様同士が積極的に意見交換を行ったことは非常に有用でした。当日はその他にも2つの質問があり、それらの内容についても活発に意見交換が行われました。この様な形で2回を終え、参加者の方々にはご好評をいただいております。
 今後は内容をより濃く話し合うため、もう少し少人数単位で話し合いを行い、その結果を全体で話し合うようなスタイルも考慮中です。また開催頻度も徐々に多くし、月に1回程度は開催できるような体制にしたいと考えております。この談話会は若い方はもちろんのこと、長年仕事をやってきて人前ではしゃべったこともないというような方にもご参加いただき、種々の経験談を後進に伝えていただければ、非常に貴重な財産となっていくと思っております。是非多くの方に参加していただき、別々の職場で勤務しているのではありますが、参加者全員が1つの職場での先輩、後輩あるいは同僚という感覚で知恵を出し合っていくことで、業務に役立たせていただければと考えております。

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資  料
   研修会に参加して  −臨床化学研究班・よろず相談談話会―
浦安市川市民病院 検査科
伊 藤 博 己

 今から二十数年前、検査技師として病院に勤務し、生化学検査担当になり、すぐに技師会に入会しました。自分の担当項目などに関連する研究班を希望し、各種研修会に参加しその時代の最新情報や、仕事に必要な知識を得るのが目的でした。その頃の生化学検査は、自分達で測定試薬を調製、検定し検査を実施していました。その後、項目ごとに試薬がキット化され各試薬メーカーから発売され検査効率が上がりました。その後シングルマルチの分析機が発売され、多チャンネルの分析機が現在のように各病院に普及する時代になり、スタートボタンを押せば何分後には検査データが打ち出され技師は管理血清の値の確認後、結果を報告。所要時間約15分。今まで各項目における試薬と試料の反応による溶液の色の変化や検査工程中の手技的な技師の技量が検査値に影響を与えるような時代背景を知る技師にとって便利な作業になっています。いつまでも昔の事を言うのは、年を取った証拠だと言われますが、自動分析機がブラックボックス化した今こそ、臨床化学に携わるならば反応原理などもう一度原点に戻り基本を理解して日々の検査業務を遂行してもらいたいと思っています。初めて患者さんから採血する時、失敗しないようにと緊張して手の振るえが止まらなかった事、経験ありませんか。そういう気持ちを常に忘れない。「正」と言う字は「一に止まる」と書きます。仕事などで何か問題に直面した時、原点に戻ると以外に解決法が見つかるかもしれません。さて今回、臨床化学研究班よろず相談談話会に参加しいつもとは何か違った感じを受けましたそれは満足感のようで連帯感もあり、何か明るいきざしのようでした。
 臨床化学に日頃従事している若い人から、私のような年代まで多数の技師の方々が一同に会し日常検査に関する疑問点や異常検査値との遭遇した時の対処法を話し合い、情報を共有するという企画で私はとても気に入りました。気に入った点は、「今までの受講(受身)ではなく自ら考えを養う」、「実体験に基づいているので応用可能」、「全員参加型なので多彩な視野からの意見が得られ、他病院の技師の方々と知り合いになれる」また、当研究班長(千葉大学医学部付属病院)吉田さんと(千葉市立青葉病院)小山さんの名司会ぶりにより気軽に意見が述べやすい雰囲気が演出されています。
 初回はいくつかの事例を取り上げわかりやすく説明されたり、試薬メーカーの学術の方々も参加されており専門的なアドバイスが得られます。多数の技師スタッフで業務を実施している施設では、1つ1つの対応が適切に処理されていくと思いますが、少ないスタッフで検査内容も掛持ちで相談する人もいなく心細く苦労している技師の方々もいると思います。まずこの会に参加して疑問を投げかけいろいろなアドバイスを頂戴し日常検査業務に生かしてみましょう。まだ参加していない人は是非、参加して下さい。

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施設紹介

財団法人 ちば県民保健予防財団(検査課)


 2月25日に本年1月から美浜区新港の6階建て新社屋で本格的な業務を開始した、ちば県民保健予防財団を訪ねました。場所は、京葉線千葉みなと駅から徒歩で約15分、近隣には千葉県看護会館などがあります。
 私たちは、最初に検査部の山崎部長を訪ねましたが所用の為、磯部副部長からお話を伺いました。財団は、平成15年4月1日に(財)結核予防会千葉県支部、(財)千葉県対がん協会、(財)千葉県予防衛生協会、(財)千葉県医療センタ−の四団体が統合され設立されたそうです。
 財団の主たる業務は各種巡回健康診断、がん健診及び各種検体検査です。なかでも学校保健法に基づく学童・生徒の各種健康診断や検査、労働安全衛生法に基づく一般健康診断、特殊健康診断、老人保健法に基づく市町村住民の基本健康審査と各種がん健診が大きな割合を示しているそうです。また施設は1階から3階が人間ドック、がん精密健診等の専門外来、4階が検査部門、5階、6階が事務部門である等、詳しく案内して頂きました。職員数は約300名でその内約2/3が看護師、保健師、臨床検査技師などの技術職で、健康診断や検査の増加する春、秋は200名を越える臨時職員がお手伝いに来るそうです。

 検査部門は一般検査と環境検査の2課、職員23名で構成されています。
 一般検査課は、生化学・血液検査・血清検査室、細菌検査室、寄生虫・便潜血検査室、尿検査室、先天性代謝異常等検査室の5セクションに分かれています。
 生化学・血液・血清検査室は、巡回健康診断や施設内健康診断、人間ドックなどの検体(年間約14万件)をシスメックス、日立の分析器を用いて検査していました。
 細菌検査室は、食品取扱者の検便検査、食品の自主検査他に健康診断診療に係わる結核菌検査を行っており、P3レベル相当の設備もありました。
 寄生虫・便潜血検査室は、学童・生徒の寄生虫卵、ぎょう虫検査が業務の中心ですが、寄生虫予防法の廃止に伴い業務量の減少と季節変動が大きくなっています。普段は職員2名が大腸がんの一次スクリーニングである便潜血反応検査(年間約8万件)を行っているとのことでした。
 尿検査室は巡回健診で陽性となった持ち帰り検体の精査を行っていますが、学校保健法に基づく学校集団尿検査が始まる4月から7月は他部門からのシフトと臨時職員の増員により50万件以上の検体を処理しているそうです。
 先天性代謝異常症等検査室は、千葉県及び千葉市からの委託により、千葉県内の産婦人科から郵送されて来る新生児の濾紙血試料を用いたマススクリーニング検査を毎年5万件程行っているそうです。
 環境検査課は、有害物質を取り扱っている事業所の委託により事業所の作業環境測定と従業員の血中、尿中代謝物の分析を一般病院ではあまり見かけない、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、原子吸光光度計などの機器を用いて測定しているそうです。

生化学 結核菌室
一般検査室
 施設は、病院でもなく、検査センタ−でもなく不思議な雰囲気があり、どこかの会社にいるような居心地でした。取材後、戻って来られた山崎部長が「施設を統合するのは大変なんだよ」と意味深な事を言っておられました。お忙しい中、快く取材させて頂いた山崎部長、磯部副部長はじめ検査課の皆様にお礼を申し上げます。
最大検診車 乳腺車
 最後に、副部長の案内で駐車場に行き検診車を見学しましたが、50台ものバスが並んでいる様は、さながらバス会社のようであり、壮観のあるものでありました。
(千臨技の会計 石野氏のス−ツ姿しか見たことがなく、取材時の白衣すがたは目から鱗でした。)

(鷲津 正裕、山本 修一)

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