秋の嵐が吹き荒れた前日とはうって変わって晴天の10月25日に、千葉市美浜区の千葉県救急医療センターを訪問させていただきました。
千葉県救急医療センターは、千葉県全域を対象とする第三次救急医療施設で、全国でも数少ない完全独立型の救急救命センターとして、昭和55年に開設されました。設立以来、年中無休・24時間体制で脳卒中はじめ心筋梗塞や急性腹症、多発外傷等の重篤救急患者の救命救急医療を行ってきました。近年においては、高度救命救急センターの認定に続き、災害拠点病院の指定を受け、さらに平成9年には熱傷センターも新設され、急性大動脈解離や広範囲熱傷、指肢切断、急性中毒等の特殊疾病患者の救急医療も行っています。
救急専門病院…ということで、救急車がひっきりなしにやって来るような、スゴイ状況を想像せずにはいられなかったのですが、幸いこの日は比較的落ち着いた日のようで、一安心。まず、中に入って感じたのは、内科とか外科…といった『外来』がありません。診察の順番待ちの患者さんも居ませんので、一般病院とはちょっと雰囲気が違います。一般の外来は行ってはいませんが、入院中に特殊な治療をした患者に対して一定期間フォローアップする外来診療は行っています。
施設は、重症患者の搬送・移動の利便性を考慮して、1・2階の低層階が診療部門と病棟になっています。
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1階に患者受入処置室、放射線科、手術室、集中治療室、薬剤部等が、2階に検査科、一般病棟、理学療法室等が配置されています。また、廊下の幅が広くとられていて、大規模災害の際には緊急用のベッドを置くスペースになるそうです。病床数は100床で、全て救急患者収容ベッドです。このうち20床は集中治療床(ICU8床、CCU10床、熱傷センター2床)となっています。また、道路を挟んだ県の花見川終末処理場内にヘリポートがあり、ドクターヘリはこちらに到着するようになっています。
原則として患者の受入は、一次・二次救急医療施設からの紹介または交通事故等救急隊からの要請に限られています。担当医同士が直接連絡を取り、受診の可否を決め、受診が決まると患者の情報が、看護・放射線・検査・薬剤の各部門へ医事課から連絡が入ります。患者の約97%が救急車で搬送されて来ますが、この時に院内放送用チャイムが3回鳴り、患者の到着を知らせます。このチャイムを合図に担当医は勿論、手の空いている医師、受入部門の看護師の他、放射線・検査・薬剤の各部門の職員が受入部門に集合し、患者の病態を把握します。初期治療と同時に採血が行われ、検査項目のオーダーを受け、30分以内に検査結果を報告します。
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丁度お話を伺っている時に、このチャイムが鳴り、患者搬送から処置までの様子を見ることが出来ました。運ばれて来たのは幼稚園児位の子供、頭部外傷のようです。大声で泣いている様子からすると、それほど深刻な状態では無さそうです。(良かった…)泣く子供に声をかけつつ、テキパキと処置を進めるスタッフの方々…まさに『救急病院24時』等のドキュメンタリー番組で観る光景が目の前で繰り広げられています。この日は他部署の実習生も見学していましたので、かなりの大人数でしたが、通常でも1人の患者に各部署からスタッフが集まり、チームとなって治療に当たるそうです。
検査科は、検査部長の石橋巌先生のもと、大森由美子科長以下技師15名、臨時技師1名、医療助手1名で平日・休日の区別無く年中無休・24時間体制で業務に当たっています。また、幕張の精神科医療センターの検体や脳波検査の出張も担当している為、全員が精神科医療センターとの兼務となっています。
業務は、『生理・血液・一般・病理・輸血』と『生化学・血清・細菌』の2つのグループに分け、各8名で行っています。日勤帯は各班3名の計6名で、夜勤帯は各班1名ずつ2名が16時から翌日9時30分までの勤務を行います。1回に16時間の勤務を続けてとり、翌日は休みというように勤務を組むことにより、夜間勤務を1週間当たり40時間の勤務時間の枠内で行っています。検査室のシステムは、平成13年に富士通のオーダリングシステムが導入され、検査システムも日立のHILASからA&TのCLINILANに変更になりました。
検査室の入口を入ると、すぐに血液ガスのABL625(ラジオメーター)が設置され、緊急患者の血液ガスが直ちに測定できるようになっています。このABL625は、1階の手術室・集中治療室に隣接した検査分室にも置かれ、集中治療室の患者の検査を医師・看護師が行っています。ABL625を用いることで、血液ガス分析と同一検体でオキシメトリー、電解質、血糖、乳酸等の測定が3分以内で可能です。
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血液検査では、Sysmex XE2100、凝固検査はSTA-R
Evolution(ロシュ)を使用しています。凝固検査は、循環器科の抗凝固剤療法のモニタリングや、外科・脳血管障害等の患者受入れ時検査の一つとして行っています。
病理検査は、穿孔性胃潰瘍や虫垂炎、その他の急性腹症等の検体が主なものとなります。また入院患者の病理解剖の他、平成9年より県衛生部の依頼を受けて、行政解剖の協力も行っています。行政解剖は特に不定期に行われる業務の為、対応に苦慮することが多いそうです。
生理検査は心電図と脳波検査が主なものですが、脳波検査は多くの場合、臨床的脳死判定の為に行います。昨年は脳死下での臓器提供もありました。
生化学では、日立7180、Dimension(デイド・ベーリング)をオンラインでルーチン検体を処理しています。他に電解質のバックアップ用にEA06R(A&T)等を設置しています。また、診療部からの要望で、PASFAST(三菱化学ヤトロン)によるBNPおよびトロポニンTの定量を導入予定とのことです。
その他、救急ならではの特殊な検査として毒薬物検査があります。化学テロを含めた毒薬物中毒の原因物質の医療機関での分析の必要性から、平成10年度に厚生労働省は全国8施設の高度救命救急センターへ分析機器を配備しました。REMEDi(BIO−RAD)の他、ガスクロマトグラフ質量分析装置、高周波プラズマ発光装置(島津製作所)等が設置されています。しかしながら、この検査には毒物に関する充分な知識と分析技術を必要とするのに対し、人事異動等により人材育成と熟練技師の確保が困難な状況で、この業務を如何に継続して行くかが今後の課題だそうです。
細菌検査室は、施設の性格上、細菌感染でも重篤型・劇症型の症例が多いのが特徴です。こちらの強みは、他の検査同様、細菌検査に関しても24時間体制がとれる点です。夜間提出された検体からGram染色の結果を報告することで迅速な治療が可能となったことも少なくないそうです。主な機器はBACTEC
9050(ベクトン)、安全キャビネット、嫌気性培養装置(エアテック)等です。
輸血検査室は1階の薬剤部に隣接し、手術室や集中治療室に近い位置にあります。輸血血液製剤や血漿分画製剤の管理を薬剤部が、血液型・抗体スクリーニング・クロスマッチ等の検査を検査科が担当しています。薬剤部が輸血検査の窓口となっていて、依頼があると双方から各1名が出向いて輸血業務を行っています。血液型検査に関しては、薬剤部もオモテ試験を行い、検査科とのダブルチェックを行っています。
薬剤部との協力体制のもと、夜勤帯においても、急性大動脈解離や交通外傷等、最も緊急度の高い場合も約10分で対応しているそうです。主要な機器はバイオビューシステム(オーソ)です。また、時として重症患者が一度に複数搬送されて来ることがありますが、患者取り違えなどの輸血過誤を回避する為、どのような緊急時であっても輸血前には血液型用検体とは別時採血した検体で血液型の確認をすることを励行しているそうです。
大森科長に今後の課題を伺いました。
『臨床検査を取り巻く環境は、度重なる保険点数の削減や包括化の拡大等により、検査料の減少を引き起こし、検査の収支は益々厳しくなる一方です。元々不採算性の高い救急医療専門施設の検査室では尚更の事です。こうした状況に対して充分な認識を持ち、検査室の今後の方向性、あり方を改めて考えなくてはならないと思います。今後は臨床サイドと良く話し合いながら、効率的で良質な検査を目指し、検査項目についても見直していきたいと思っています。』
今回、見学させていただき、診療部門だけでなく検査室も平日・土曜・休日の区別無く、更には日中・夜間の区別無く年中無休・24時間同じ内容の検査を提供しているということに、一県民として、とても心強い思いがしました。(もっとも、お世話になるようなことが有っては困りますが。)最後になりましたが、お忙しい中お話を伺いました大森科長はじめ高桑技師、検査室の皆様にお礼申し上げます。ありがとうございました。
小野寺清隆、丸子 孝之
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