千臨技会誌 2007 No.2 通巻100

研  究 レムナント様
リポ蛋白コレステロール測定試薬

(メタボリードRemL-C)の使用経験

淵上 孝一  扇田 郁美 
大古 明美  立石 典子 
高梨 法子  山田 奈美恵
梅澤 理枝  桐谷 陽子 
平野 繁治  磯部 みどり
西川 栄子  北原 則江 
上野 芳人

新都市医療研究会君津会 
玄々堂君津病院 臨床検査科
 
施設訪問 千葉県赤十字血液センター



研 究
レムナント様リポ蛋白コレステロール測定試薬(メタボリードRemL-C)の使用経験
淵上 孝一  扇田 郁美  大古 明美  立石 典子  高梨 法子 
山田 奈美恵 梅澤 理枝  桐谷 陽子  平野 繁治  磯部 みどり
  西川 栄子  北原 則江  上野 芳人               
新都市医療研究会君津会 玄々堂君津病院 臨床検査科

【Key words】
レムナント様リポ蛋白コレステロール、直接測定法、糖尿病

T はじめに
 レムナントリポ蛋白は、冠動脈疾患発症・進展の危険因子として注目されている
1)。またレムナントリポ蛋白はIII型高脂血症による増加以外にも、糖尿病による高トリグリセライド(TG)血症に続発して増加することが知られている2)。
 レムナントリポ蛋白測定は抗ヒトアポAIと抗ヒトアポB100モノクローナル抗体を用いた免疫吸着法によるレムナント様リポ蛋白コレステロール(RLP-C)測定法として広く用いられている3)。しかし、免疫吸着法は前処理操作を行う点で煩雑さがある。
 今回われわれは、協和メデックス社により新たに開発されたRLP-C測定法4)が、前処理操作を必要とせず汎用生化学分析機にて直接測定が可能となったことから、その測定法の性能について検討した。さらに、糖尿病患者のRLP-C測定の有用性についても検討を行ったので報告する。

U 対象
 対象は当院通院中の2型糖尿病患者である。内訳は男69例(62.6±9.2歳:平均±標準偏差)女49例(62.4±9.5歳)、合計118例である。
 比較対照は、非糖尿病群として当院職員の男10例(33.6±10.8歳)、女50例(37.6±9.7歳)、合計60例である。

V 方法
1.RLP-CはメタボリードRemL-C試薬を使用した。また、比較対照法には日本抗体研究所製のRLPコレステロール『JIMROU』を使用した。
 本測定法の概要を図1に示した。
図1 本測定法の概要(原理)

2.総コレステロール(TC)はデタミナーTC、TGはデタミナーTGでいずれも協和メデックス社製を使用した。HDLコレステロール(HDL-C)およびLDLコレステロール(LDL-C)は第一化学薬品のコレステストN HDL、コレステストLDL試薬を使用した。上記の脂質は、日立7180形自動分析機にて測定した。
3.グルコースはアークレイ社のGA-1160分析機、およびグリコヘモグロビンA1Cは東ソー社のHLC-723G7分析機にて測定した。

W 結果
1.再現性
 3濃度のプール血清をそれぞれ10回連続測定した。いずれもCV1.5〜2.1%と、良好であった(表1)。また日差再現性においても5日間測定しところ、CV23〜3.4%と、良好であった(表2)。
2.直線性(図2)
 高濃度の患者プール血清を用いて希釈系列を作成して測定したところ、約80mg/dlまで良好な直線性が認められた。また高濃度脂質資料(協和メデックスより提供)では約110mg/dlまで良好な直線性が認められた。
3.干渉物質の影響
 干渉チェック(シスメックス)を用いて、干渉物質による影響について検討した。
 図3に示すごとく、添加濃度がアスコルビン酸50mg/dl、遊離型ビリルビン50mg/dl、乳ビはホルマジン濁度2300までそれぞれ影響が認められなかったが、抱合型ビリルビン添加濃度40mg/dlで約5%、ヘモグロビン添加濃度500mg/dlで約6%の負の影響が認められた。

表1 同時再現性 表2 日差再現性
図2 希釈直線性
図3 干渉物質の影響
図4 免疫吸着法との相関

4.相関
  本法(y)とJIMROU(x)との相関を図4に示した。相関係数r=0.969、y=0.951x+0.0443 と高い相関関係を示したが、一部の検体で乖離が認められた。
5.凍結保存による影響
  @ 2濃度のプール血清とチリトロールを用い、凍結保存(−60℃)による測定値への影響を検討した。なお、プール血清試料は、予め小分けをして凍結し測定時に融解して測定した。図5aに示すごとく、12日まで測定値に影響はみられなかった。
  A プール血清およびチリトロールを繰り返し凍結融解を行った場合の測定値への影響を検討したところ、凍結融解の2回目から測定値のバラツキが認められた(図5b)。



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図5 連結保存による影響


図6食後高血糖群での血清脂質との比較

6.糖尿病患者の血清脂質
 非糖尿病群と糖尿病群との比較を表3に示した。糖尿病群のRLP-C、TG値が非糖尿病群に比べ有意に高値を示し、HDL-Cは有意に低値を示した。

7.食後高血糖と血清脂質との関係
 糖尿病患者に、採血時に食後の時間を聞き取り、食後2時間を対象として、血糖値が200mg/dl以上の群(高血糖群)と未満の群(非高血糖群)とに分類し、血清脂質の比較を図6a−cに示した。高血糖群で有意差は認められなかったが、RLP-C、TG、HbA1C値が高値傾向を示した。
V.考察
 本法におけるRLP-C測定法は、再現性、直線性および共存物質の影響ともにほぼ満足のいく結果であった。−60℃での凍結保存では、少なくとも、12日間まで測定可能であった。また4℃保存では5日間まで測定可能と思われた。本法と免疫吸着法とのあいだに高い相関を示したが、一部の検体で乖離が認められた。これは滝野ら5)も指摘しているように、免疫吸着法によるRLP-Cの測定法では抗ヒトアポB100抗体と抗ヒトアポAI抗体での反応により非結合分画中(レムナント様リポ蛋白)のコレステロール値を測定するのに対し、本法では、レムナントリポ蛋白以外のリポ蛋白を阻害し、可溶化させたレムナントリポ蛋白のコレステロールを直接測定することから、レムナントリポ蛋白に対する免疫吸着法と本測定法との反応性の違いが考えられる。
 糖尿病患群では、RLP-CおよびTG値が高値を示し、HDL-C値が低値であったことから糖尿病における脂質代謝異常を示唆する結果であった(表3)。さらに糖尿病患者では食後高血糖が動脈硬化発症・進展に寄与しているとされ、特に心疾患のリスクが高いことが報告されている6)7)。
 今回のわれわれの検討では、糖尿病患者の食事の量や質など一定条件を考慮して得られたものではないが、食後2時間の血糖値が200mg/dl以上を示した群でRLP-C、TG値が高値傾向を示した。このことから食後高血糖群と脂質代謝異常との関連性が考えられるため、食後高血糖とRLP-Cおよび他の脂質との関係については、今後、詳細に検討する必要があると思われた。

表3 非糖尿病と糖尿病群の血清脂質値

Y まとめ
1.本法は、再現性および直線性が良好で従来法とも良好な相関を示した。共存物質の影響では、ヘモグロビンおよびビリルビンにおいて若干の影響が認められたが、ほぼ満足のいく結果であった。
2.糖尿病患者のRLP-C値は非糖尿病患者に比べ高値を示し、食後高血糖においても高値傾向を示したことから、糖尿病におけるRLP-C測定の臨床的有用性が示唆された。
3.本法は前処理操作を必要とせず、直接自動分析装置にて測定が可能なことから有用性が高いと思われた。

文献
1.Mcnamara JR., et al. Remnant-like particle (RLP) cholesterol is an independent cardiovascular disease risk factor in women: results from the Framingham Heart Study. Atherosclerosis 154:229-236 2001.
2.芳野 原、他 糖尿病と脂質代謝異常 Mebio 22:21-33 2005.
3.Nakajima K, et al. A new assay method for the quantification of cholesterol in remnant-like lipoproteins in human serum using monoclonal anti apoB-100 and apoA-I immunoafinity mixed gels. Clin Chim Acta 223:53-71 1993.
4.宮内一人、他.界面活性剤を用いたレムナントリポ蛋白コレステロール(RLP-C)直接測定法の開発.臨床病理 53(補冊):325 2005.
5.滝野 豊、他.レムナント様リポ蛋白コレステロール「RLP-C」の新しい測定試薬「メタボリードRem-C」の基礎的検討および有用性の評価.医学と薬学 56:269-276 2006.
6.Tominaga M., et al. Impaired glucose tolerance is a risk factor for cardiovascular disease, but not impaired fasting glucose. The Funagata Diabetes Study Diabetes Care 22:920-924 1999.
7.DECODE Study Group Glucose tolerance and cardiovascular mortality. Comparison of fasting and 2-hour diagnostic criteria Arch Intern Med 161:397-404 2001.

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施設紹介
千葉県赤十字血液センター

 今年は暖冬といわれ、桜の花がそろそろ咲き出そうとしていた3月13日千葉県赤十字血液センターを訪問させていただきました。当該施設は船橋市北部にあり、近くにはアンデルセン公園というデンマークの田園風景や風車が再現された公園があります。

千葉県赤十字血液センター

 昭和59年、千葉県内の安定的な血液製剤の供給体制を目的に、県内2つ目の血液センターとして千葉県赤十字血液センター(旧千葉県船橋赤十字血液センター)は設立されました。平成8年には千葉県千葉港赤十字血液センター(旧千葉県赤十字血液センター)の検査業務が統合され、さらに製剤業務は平成15年に統合されました。千葉県内で献血された血液の検査は全てこちらで行われています。血液センターの主な業務内容は、献血者からの採血、献血された血液の検査、輸血用血液製剤の製造、製剤の冷蔵・冷凍保管、そしてその供給です。
 今回は血液の検査、製剤の製造、冷蔵・冷凍保管、供給のそれぞれの現場を見学させていただきました。
 献血された血液の検査に携わるのは、検査一課と二課です。スタッフの人数はそれぞれ14名と8名です。検査一課の主な業務は、献血時に採取された血液の血液型検査、輸血後感染症防止のための抗原・抗体検査、献血後にお知らせがくる血球計数検査と生化学検査です。400mL献血と成分献血の場合、5本の検査用検体が採取されます。1本目は、血球計数検査用でシスメックス社製SE-9000にて測定されていました。2本目は、感染症と生化学検査用で、オリンパス社製の自動輸血検査装置PK7200を使用して、HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体、HBIG製剤選別検査の4つのHBV関連の検査、パルボウイルスB19抗原、梅毒TP抗体、HTLV1抗体、HIV1/2抗体およびHCV抗体の計9項目のスクリーニング検査を1枚のプレートあたり10検体について血球または粒子凝集反応で測定していました。凝集像の有無は、CCDカメラによって自動判定されます。これらのうち陽性反応がでるとさらに精密な二次検査に進みます。感染症検査の分注が終わると搬送装置によりオリンパス社製ACA5200に送られ生化学検査が行われます。検査項目はALT、AST、γ-GTP、TP、ALB、A/G比、総コレステロールの7項目が測定されます。

感染症・血液型・生化学検査の分析装置

 3本目は、血液型関連検査用の検体です。始めに5人分の血漿がプールされ、PEG抗グロブリン用手法による不規則性抗体検査のスクリーニングが行われます。その後、ABO血液型のオモテとウラ試験、Rh血液型検査、食塩液法とブロメリン法による不規則性抗体スクリーニング検査が、感染症検査と同様PK7200によって1プレートで10検体分が行われます。また抗原陰性血液の確認、亜型や稀な血液型、不規則性抗体陽性血液は、用手法による二次・三次検査に進みます。4本目は、NAT(核酸増幅検査)用検体です。感染症検査を終了したNAT用検体は、当日あるいは翌日中にNAT施設に搬送されて分析されます。NATは前出の感染症検査が陰性であった血液について、20本分がプールされHBV、HCV、HIVの検査が行われます。これは少しでもウインドウ・ピリオドを短縮するためです。5本目は、保管検体用です。血液センターで1年間−20℃で保管され、さらに京都府にある血液管理センターにおいて10年間保管されます。
 これらの検体には、血液バックと同じバーコードが貼付されており、オンライン測定され、検査結果などのすべての情報は血液事業本部のコンピュータに全国一元管理されています。千葉県赤十字血液センターでは、平成17年度のべ約220,000人分、1日平均約600人分の血液が検査されています。
 検査二課は、血清学的およびDNA検査法による献血者のHLA・HPA型検査、HLA適合血小板製剤のHLAおよびHPA適合の適否を調べるクロスマッチ検査、血小板不応患者さんなどのHLA・HPA抗体検査、造血幹細胞移植患者さんの家族内タイピング検査、血液製剤の品質管理のための抜き取りによる無菌試験、プロトロンビン時間(PT)計測による凝固検査などが行われていました。無菌試験は、細菌と真菌用カルチャーボトルに接種して2週間培養され確認されます。
 続いて血液製剤の製造工程を見学しました。第一印象として、さすがに製剤の製造現場とあって衛生的できれいな部屋でした。白血球を除去した赤血球濃厚液と新鮮凍結血漿が製造されているところを見学できました。献血ルームや献血バスで採取された血液バッグは、まず吊り下げられ白血球除去フィルターを通して赤血球バッグに溜められます。上部と切り離されたバッグはMAP液入りバック・血漿バッグと共にカップに入れられ、大型の遠心分離機で分離されます。分離されたバッグは、それぞれの成分に調製する機械にかけられ、赤血球濃厚液と新鮮凍結血漿が調製されます。一部の赤血球濃厚液は、4台のX線照射装置で15Gyの線量が照射され、放射線照射赤血球濃厚液がつくられます。新鮮凍結血漿は、トレイに並べられ−60℃で急速冷凍され、その後−20℃以下で冷凍保管されます。成分献血により採取された血小板製剤は、血小板数を計測し約22℃の水平振盪機の中で保管されます。新鮮凍結血漿は7月頃から1.5倍量の新しい規格の新鮮凍結血漿の供給が開始されます。この日に調製されていた1.5倍量の新鮮凍結血漿は、6ヶ月の貯留保管期間を経て9月以降に供給される予定です。この1.5倍製剤は、200mL献血では今まで約80mLであった血漿量が約120mLに増量された製剤です。400mL献血では240mLになり、今までのものよりかなり大きくなった気がします。増量の目的は、輸血後感染症のリスクを少なくするのが目的です。

新鮮凍結血漿が製造されている様子

  ここまでの過程は、検査一課で行われている検査と同時に行われています。これらの製剤のうち検査結果によって使用できない製剤は、翌日厳重なチェックの下に廃棄されます。使用できない条件としては、ALT 61 IU/L以上、感染症検査(NATを含む)陽性などです。平成17年度には約7,200件、3.26%の血液が不合格となっているそうです。
 血液製剤の保管庫には、“Jr(a-)”、“Fy(a-)”、“s(-)”といった大変貴重な血液型の血球が凍結保管されており、いざというときの出番を待っています。保管庫は、どれも非常用発電装置に繋がれており、万が一に備えられていました。
 続いて供給課を訪ねました。県内の輸血用血液の全ての注文を電話やファックスで受け取ります。24時間365日、千葉県赤十字血液センター16名(夜間3名)、千葉県千葉港赤十字血液センター12名(夜間2名)態勢で迅速な供給輸送にあたっています。緊急輸送の連絡が入ると15分以内に出動できる態勢でいるとのことでした。ドアの外には何台もの救急搬送車が待機していました。

供給課の前に並ぶ献血運搬車 松崎 哲夫 検査一課長
 最後に検査一課長の松崎哲夫さんに、今後の血液センターにおける検査室の課題について伺いました。「安全な血液を使っていただくために、新たな感染症検査機器を導入する動きもあります。また当検査室は東京都赤十字血液センターに集約化して効率化を計るということで、平成20年4月には移転する予定です。今後も医療機関からの要請に基づくいろいろな検査を継続していく仕組みづくりが課題です」とのことでした。
 今回はお忙しい中長時間にわたり取材にご協力していただいた血液センター所長 崎山 樹先生、検査一課長 松崎 哲夫さんをはじめ多くのスタッフの方々に深謝いたします。
(丸子孝之 古賀智彦)

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