千臨技会誌 2010 No.3 通巻110 |
みて見て診よう | 小児腫瘍の細胞診(4) 石灰化上皮腫 calcifying epithelioma(毛母腫 pilomatricoma) |
千葉県こども病院 検査部病理科 有田 茂実 |
施設紹介 | 千葉県立佐原病院 | 宮崎由紀子 |
研究班紹介 | 公衆衛生研究班 | 三浦久美子 |
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みて見て診よう! |
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小児腫瘍の細胞診(4) 石灰化上皮腫 calcifying epithelioma(毛母腫 pilomatricoma) |
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千葉県こども病院 検査部病理科 有田 茂実 |
【どんな疾患かみよう!】 石灰化上皮腫は,毛のもとになる組織に由来すると考えられている良性皮膚付属器腫瘍で,毛母腫とも呼ばれている1)2)5).小児においては大変良く目にする病変であるが,成人にもみられる.当院病理科では開院以来約22年間で180症例の切除例を扱った. 【臨床所見をみよう!】 殆どの症例は,皮下腫瘍の形態をとる.好発部位は頭頸部や上肢で,大きさは3cmを超えることはなく,多くは単発性である.皮膚外観所見は,通常は皮膚と同色の隆起性結節で(図1a,b),時に赤味を帯びたり青黒い色の場合もある.また触診上は石のように硬く,可動性良好である.大きなものや,可動性不良な例,皮膚表面が破裂してしまった例では悪性腫瘍と鑑別困難な場合もある5).臨床的に鑑別を要する疾患として,類皮嚢腫,粉瘤,ガングリオンなどが挙げられる1)2)5).治療は外科的切除で,再発はみられない. 【発生母細胞をみよう!】 腫瘍の発生起源や分化に関してはいまだ解明されていないが,毛包・毛母に由来する説が一般的である1)2)5).後述する「好塩基性細胞 basophilic cell」は正常毛器官における毛母や外毛根鞘組織を模倣し,「陰影細胞 shadow cell」は毛皮質や内毛根鞘組織を模倣しているものと考えられる(図3)3)4). 【摘出検体をみよう!】 摘出検体の肉眼所見は,境界明瞭な多結節性腫瘤である.割面所見は,白く,非常に特徴的であり(図2),この時点でほぼ診断が付くといっても過言ではない.殆どの症例において石灰化を伴い,割入れの際は抵抗感があり,ゴリッと音を立てることもある. 【組織像をみよう!】 腫瘍構成細胞は,HE染色で好塩基性に染まる「好塩基性細胞」と,エオジンに淡染し核の消失した「陰影細胞」との増生からなり,両者間には移行像がみられる.また背景には種々の割合で反応性の異物巨細胞,組織球などが混在する(図4〜8).症例により腫瘍構成細胞の割合は様々だが,発症からの経過の程度が関与していると考えられている1)2)5).陳旧性病変であるほど「陰影細胞」の比率が高くなり,そこに石灰沈着がおこる(図8).石灰化が進行して骨化を認めることもある. 【細胞像をみよう!〜腫瘍構成細胞〜】 @好塩基性細胞 basophilic cell(図9) N/C比の非常に高い小円形細胞であり,結合性の緩やかな集団として,あるいは孤立散在性にみられる.細胞境界は不明瞭で,核密度は高く,クロマチンは増量し,核小体は1〜2個明瞭に認められるものが多い.核分裂像が目立つ場合もあり,悪性と見誤る可能性があるが,核は類円形で非常に均一であり,核縁不整などの異型が目立たない点に着目して鏡検するとよい. A移行細胞 transitional cell(図10) Pap.染色で褐色調の細胞質と濃縮核を有する細胞であり,「好塩基性細胞」と「陰影細胞」との中間的な細胞で,両者との移行を示唆する像がみられることもある. B陰影細胞 shadow cell(図11) Pap.染色で褐色調を呈す核の消失した細胞であり,核消失部の細胞質には厚みがあり,輪郭がすじ状にみえるのが特徴である. 【細胞像をみよう!〜腫瘍に付随した細胞成分〜】 異物反応,石灰化,骨化をはじめ,嚢胞,浮腫,出血などが種々の割合で付随し,それらの関連細胞が出現し,多彩な像を呈す.特に異物巨細胞と考えられる多核巨細胞(図12a),角化物質・扁平上皮様細胞(図12b)などの出現頻度が高い. 【細胞像のポイントをまとめよう!】 小児腫瘍は,非ホジキンリンパ腫,神経芽腫,横紋筋肉腫,原始神経外胚葉性腫瘍(PNET)など,小円形細胞主体の悪性腫瘍が非常に多い.本腫瘍の注意すべき点は,組織学的には診断が非常に容易であるにもかかわらず,穿刺吸引細胞診や捺印細胞診では,悪性と見間違う可能性があることである.我々の経験では,これは剥離しやすい「好塩基性細胞」成分が極端に多く採取され,逆に剥離しづらい「陰影細胞」成分が少ないという出現細胞の比率の差が大きな要因と考える.悪性腫瘍との鑑別上重要な所見は,多彩な細胞像を呈すことと,「陰影細胞」や「移行細胞」の存在を確認することである.年齢,発生部位,発育様式,腫瘤の大きさなどの臨床情報を加味することも大切である. 本腫瘍は小児に多い疾患であるが,どの年代にもみられることから,一般の病院でも遭遇する機会があると思われる.また細胞像についての文献も非常に乏しいので,今後の知識として役立てていただければ幸甚である. 謝辞 稿を終えるにあたり,ご助言をいただきました当院病理科堀江弘先生,検査科中山茂科長に深謝いたします. 文献 1)皮膚病理組織診断学入門 改訂第2版,南江堂,2009.2 2)よくわかる皮膚病理アトラス,金原出版,2008.10 3)機能を中心とした図説組織学 第2版,医学書院,1988.9 4) 標準組織学各論 第3版,医学書院,1994.4 5)石灰化上皮腫の発生母地に関する研究ケ,東邦医学会雑誌 第51巻第5号,2004.9
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施設紹介 |
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千葉県立佐原病院 |
宮崎由紀子 |
【沿 革】 千葉県立佐原病院は,昭和30年10月開設され,今年で55年を迎えます.佐原駅より車で10分程の緑に囲まれた静かな環境に位置し,病床数241床の地域医療を担う中核病院です.戦の神様で有名な香取神宮は病院のすぐそばにあります.佐原は水郷地帯であり昔から米どころとして有名です.街の中心に小江戸と呼ばれる町並みが残っており,昔ながらの風情を残しています.その中には日本地図を作った伊能忠敬の旧宅もあります.5月にはあやめが咲き誇り7月,10月には関東三大祭の一つである山車祭りが行われ,大勢の観光客がおみえになります.佐原病院は県の病院として開設当初内科,外科,産婦人科の3診療科と一般病床45床伝染病床22床の小規模病院で開院されましたが,診療科の増加と増改築を重ね現在は19診療科と5病棟で運営されています. 【臨床検査科】 検査科は本館2階にあり,菅谷病理検査科部長,宮ア検査科長を筆頭に技師11名受付助手2名で構成されています.夜間・休日の緊急検査は待機制で対応しており,一人当たり月に3〜4回の待機を行っています. 検体検査部門は一般,生化学,血液,免疫,輸血,細菌の6部門をワンフロアーにしており,5〜6人の技師で担当しています.システムは現在3世代目でバーコードを利用したシステムを導入しており,病院のオーダリングシステムと連携し,電子カルテ上で結果参照が容易に行えるようになっています.当院では診療前検査が主流で,外来の検体の約2/3が緊急扱いとなっています.患者様待ち時間短縮のため血糖,HbA1cは10分以内,生化学は30分以内,腫瘍マーカー,感染症は60分の報告を目指し日々努力しています.昨年度は糖尿病測定システム(血糖・HbA1c)と生化学自動分析装置を更新し,さらなる処理能力アップを図ることができました.また,千臨技の行っている検査値統一化事業の基幹病院として毎月のチリトロールデーターを発信しています.輸血検査はオーダリングシステムとバーコードにより輸血依頼や患者様と製剤の確認ができる認証システムを導入し,インシデントの防止ができるようになっています. 生理機能検査は2〜3名の技師で担当しており,そのうち超音波認定技師が1名です.当院は画像検査システムが整備されており,超音波などの検査画像や所見は電子カルテより閲覧できます.検査技師が行っている検査は腹部エコー,乳腺エコー,甲状腺エコー,心エコー,頚動脈エコー,下肢静脈エコーなどです.特に乳腺エコー,頚動脈エコー,下肢静脈エコーはほとんど技師が行っています.超音波検査は予約検査ですが,当日来院された患者様の緊急検査依頼にも対応しています.また昨年度よりCTなど他の画像検査を取り込み,エコー画像と一緒にリアルタイムで表示できるシステムを組み込んだ超音波診断装置が導入され,患者様の診断の向上に貢献しています.心電図,呼吸機能,ABIの結果は電子カルテ上で波形を閲覧することが可能です.昨年度よりてんかん専門の医師の依頼で長時間ビデオ脳波と術中脳波を開始しました.長時間ビデオ脳波は頭皮電極(コロディオン電極)と硬膜下電極があります.頭皮電極は技師がつけており,発作が出るまで1〜3週間脳波を測定し続けます.その間,ビデオの管理や毎日電極が外れていないかのチェックをしています.この検査により,発作中の脳波とビデオが同期して見ることができ,てんかんの診断に貢献しています. 病理検査室は専任の病理医1名,非常勤病理医2名,検査技師2名で構成され,昨年の検体数は,組織診1,400件,細胞診2,100件,剖検3件です. 平成12年に病理細胞診支援システム導入,平成17年に結果WEB公開システム,平成20年に院内オーダリングシステムとの接続がなされペーパーレスで稼動しています.又,特定化学物質予防規則改正でのホルムアルデヒド対策として,従来の局所排気装置・光触媒環境浄化装置・白金担持超光触媒コーティング剤等を使用し,作業環境測定値をクリアしています. 【まとめ】 当検査科は少ない人数のため担当業務だけでなくいろいろな業務をこなしています.このためスタッフのチームワークを一番大切にしています.毎年夏には家族を含めてバーベキューを行ったり,病院の忘年会には検査科で余興を出したりして皆の親睦をはかっています.茨城県との県境で千葉市からは少し遠いですが,観光地でもありますのでこちらにお越しの際は気軽にお立ち寄り下さい.
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