解答:グルカゴノーマ
悪性島細胞腫(Malignant islet cell tumor)
解説:
膵内分泌腫瘍は島細胞腫を主体としたホルモン産生腫瘍であり,全膵癌の約2%前後といわれている。膵内分泌腫瘍が産生するホルモンによりα細胞由来のグルカゴノーマ,β細胞由来のインスリノーマ,C細胞由来のガストリノーマそしてD細胞由来のソマトスタチノーマなどに分類することができる。
膵グルカゴノーマ本邦報告例77例の統計では発症年齢は10〜70才代と幅が広く,頻度は50〜60才代が最も多かった。興味深いのは77症例中50症例が女性であり,男性より女性に発症頻度が多い数少ない腫瘍の1つと思われた。主訴は,皮疹,腹痛,体重減少,貧血,意識障害,腹部腫瘤,糖尿病などである。
(組織所見)
硝子化を伴う線維性間質で区切られた中に,腫瘍細胞のリボン状,索状配列を示す増殖を認めた。血管・リンパ管浸襲,周囲脂肪組織への浸潤と多数のリンパ節転移を認めた。免疫組織化学的染色ではクロモグラニンA,グルカゴンが陽性,インシュリンがわずかに弱陽性を示した。これらの組織学的・免疫組織化学的染色所見より膵原発悪性島細胞腫と診断された。
(細胞所見)
細胞採取量が多く,平面的・散在性あるいはリボン状,索状配列を示す。また散在性に細胞集塊を認めた(ランゲルハンス島様の構築をみる細胞集塊も存在した)。
@腫瘍細胞は核偏在性を示し,裸核状細胞も多く認める。
A細胞質は濁りのあるライトグリーンで,細顆粒状ないしレース状。
B核は類円形を主体に大小不同が目立ち,軽度核異型も認める。
Cクロマチンは鮮明な顆粒状〜粗顆粒状で不均等分布,核縁は薄い。
D核小体は小型で1〜数個を有し比較的明瞭。
E背景に壊死を認める。
※膵癌取扱規約において「内分泌腫瘍では腫瘍細胞の異型度から良悪性の判断は難しく,最も信頼できる悪性所見は,明らかな血管浸襲,周囲組織への浸潤である。」このように記載されている。しかし,症例報告などでグルカゴノーマを総合的に検討すると細胞異型が強い症例においては悪性の頻度が高いことから,BCDEの所見を有する症例においては細胞形態から悪性と判断するのに有力な所見になり得ると思われる。
(症例提示 :船橋市立医療センター 高橋久雄)