日本臨床衛生検査技師会 定量検査の精密さ・正確さ評価法標準化ワーキンググループの指針では精密さの評価を,管理試料による評価と患者試料による評価の2種類を実施し,いずれの場合も精密度の推定には分散分析法を用いている.

 管理試料による評価の主目的は,長期間安定な試料を用い,日間精密度と日内精密度の推定することである.繰り返し測定日数は20日間以上となっている(信頼性の高い日間精密度を求めるためには最低でも16日以上20日程度の期間が必要).

 患者試料による評価は,多数の実検体の二重測定値を用いることで,実際の患者試料の精密さの状況を観察するとともに,精密度と濃度の関係の把握を目的とする.この場合の二重測定は同日内に実施するため日間変動を含まず,管理試料から得られる総合精密度よりは小さな推定値が得られ,日内精密度に近い値となる可能性が高い.ここで,多数の患者試料の測定値は,正確さの評価に用いるデータと共有すればよく,試料の濃度分布や測定上の注意点などは正確さの評価の項に準ずるとしている.(ただし,異常高値域を多く含む試料を用いた評価は,健康者の基準値を基に設定した許容誤差限界が適用できない場合があるので注意を要する.)

 また,精密度と濃度の関係を表す精密さのプロファイルにおいて,濃度の上昇とともに精密度が明らかに大きくなる場合は,ほぼ一定と考えられる濃度域群(例えば低濃度域,中濃度域,高濃度域別など)に分けそれぞれの濃度群別に評価する.なお,精密さのプロファイルは,多数の患者試料の二重測定値を用い,平均値を横軸に精密度の指標である範囲(または標準偏差や変動係数)を縦軸にプロットしたものであり,測定範囲全域の精密度の状況を評価する方法である.これらデータに分散分析法を適用することにより,従来曖昧であった日間精密度と日内精密度のそれぞれを適切に推定することが可能となる.

正確さの評価解説:

日本臨床衛生検査技師会 定量検査の精密さ・正確さ評価法標準化ワーキンググループの指針では正確さの評価は,1(または2)種類の血清標準物質による評価,3種類以上の血清標準物質を用いる評価,および,多数の患者試料を用いた比較対照法との比較評価の3つに大別され,それぞれ評価のための解析手法も異なる.

1種類の血清標準物質による評価は,分析法の直線性が満足され一定系統誤差がないという前提がなければ必ずしも測定範囲全域の正確さが保証できない.その点,3種類以上の血清標準物質を用いた評価や比較対照法との比較評価は,全域の正確さを比例系統誤差と一定系統誤差で評価することができ,より望ましい評価法といえる.ただし,前提として分析法の直線性が確保されていることを事前に確認しておく必要がある.また,系統誤差を高い信頼性で推定するためには,血清標準物質は4種類以上の濃度を用いることが望ましい.一方血清標準物質を入手できない場合は,実用基準法で値付けしたプール血清を,血清標準物質の代わりに用いることもできる.また実際与えられる標準物質は1種類であることが多いさが,それぞれを希釈調整して複数濃度の標準物質を作成する場合は,希釈用試料は一般的な患者血清と物理化学的性質が同様なものを用い,希釈操作は重量法などを用いて極力正確に行う必要がある.

血清標準物質の繰り返し測定は,ある日に集中的に実施するようになっているが,その前提には日間誤差が無視できることを仮定しており,精度管理が十分な状況下で測定を実施する必要がある.したがって,日間誤差が無視できない分析法の場合には,5日間程度に繰り返し測定を分けて実施し,得られた測定値を用いて結果の解析を行う必要がある.

多数の患者試料の測定も,日間誤差を相殺できるように,分析法が安定状態にあるときに精度管理を行いながら,比較対照法と被検法の両法で毎日5〜10例ずつ5日以上に分けて測定を実施する.患者試料数は,信頼性の高い推定を行うために血清性状が異常でない50検体以上を用いる.試料分布についてはNCCLSの指針に準じ,分析法の測定可能範囲を考慮し低値や高値側に極端な片寄りを示したり,2相性分布にならないような試料を集める必要がある.また,すべての患者試料をそれぞれ分析法で二重測定しておけば,正確さと精密さの両評価に利用することができる.

測定値の解析については,3種類以上の血清標準物質を用いる場合は直線回帰式を適用し,比較対照法に対する比較評価には直線関係式を適用した.その背景には,比較対照法に無視できない誤差が含まれる場合に,通常の回帰式を適用することの統計学的な問題があるためである. 

正確さの許容誤差限界

1(または2)種類の血清標準物質を用いる評価では平均値の信頼区間と標準値を比較し,3種類以上の血清標準物質を用いる評価あるいは比較対照法との比較実験においては,比例および一定系統誤差の統計学的検定によることとした.この条件を満足することが望ましいが,棄却された場合にはもう一段あまい基準として,バイアスの相対値の経験的な限界を5%(Na・Clは2%)以下であることとした.評価のための濃度水準は医学的意思決定濃度とし,具体的には基準範囲上限値や治療方針決定値などを用いる.また,比較対照法との比較実験においては,基準法あるいは実用基準法を用いることが望ましいが,これら認証された基準法に対して正確さが既知な自動分析装置による方法などを用いてもよいとしている.